【アジサイ事件】－事件記者 朽屋瑠子－

UFOとキャトルミューティレーション専門のオカルト雑誌
「月刊モー」編集部に、朽屋(クチヤ)瑠子(ルコ)という
フリーの事件記者が出入りしている。

女だてらにめっぽうオカルトに強く、日本中を飛び回っては、
今日も不思議な事件を追いかける。

「オーイ、クッチャルコはいるか~」

「ハーイ、デスク　ここにいますよ~」

「ここにいますよじゃないんだわオマエさんわよ、取材だよ取材!!」

「えぇ~・・・。今度はどこの宇宙人ですか~?」

「都内高級住宅街で、お婆さんが忽然と行方不明だと。これは宇宙人にさらわれたのかもしれない。すぐ行って調べてくれ!」

「は~い・・・。どれどれ場所はと・・・おっ、ここ・・・有名なお蕎麦屋さんの「兵〇家があるじゃないですか!・・・お昼そこで食べよう~~っと。じゃ、取材行ってきまーす!」

軽快に走り去っていく朽屋瑠子。
それを見送るデスク。

「絶対食い物目当てじゃねーか・・・クッチャルコめ~~」

・・・・・・

社用のスーパーカブに乗り、現地へ行く前に警察署に寄って情報を仕入れてみた。

行方不明になっているのは長谷川松子さん(75才)
現在一人暮らしで、行方不明になったのは６月3日と見られている。

その日、公民館で開かれていた手芸教室で目撃されたのが最後で、
当日はフェルトでアジサイの花を作るレッスンを受けていたらしい。
その日を境に、ぷっつりと音信不通となり、心配した友人たちから警察に捜索願いが出された。雨が降る中こつぜんと消えたお婆さん。失踪する動機もなければ、徘徊するほどボケてもおらず、事件・事故に巻き込まれた可能性もあるが、降りしきった雨がすべての証拠を洗い流してしまっていた。

兵〇家のざる蕎麦を食べながら朽屋は思った。

「さすがにこれは私の出る幕じゃない気がするなぁ・・・」

そう思いながらも、念のためお婆さんの家に行ってみることにした。
朽屋ならば、家に残留思念のようなものが残っていれば、感知することも可能だ。

一方通行の多い狭い路地を、朽屋のスーパーカブが走る。もうすぐお婆さんの家だ・・・と言うところで、突然朽屋の身体に電流のような刺激が走る。

「くっ、なんだ?」

見ると、お婆さんの家の隣にある立派なお屋敷から、なにかオドロオドロシイ霊気が立ち込めている。朽屋はその庭を凝視した。６月の雨を存分に吸って育ったアジサイの園。
その一番奥に、見たこともない真っ赤なアジサイが咲いている。そしてそれに寄り添うように、二人の霊体が立っているのが朽屋には見える。朽屋は息をひそめ、霊を観察してみた。