橋の下の幽霊

その日を境に俺は橋の近くを通るたびに恐る恐る窺るようになった。
幽霊と知ったからには直視しないようなるべく顔を向けずに目端で眺めた。
ホームレスの幽霊は相変わらず橋の下のダンボールハウス近くで佇んでいる。
もしかしたら地縛霊みたいな事になってるんじゃないかと不安だったが、そのホームレスの幽霊は数カ月もその場から動く事は無かった。

最早、ホームレスの幽霊が町の風景の一部に同化した頃だった。
同じ高校に通う一つ上の学年の不良が河川敷で溺死しているのが見つかった。
その不良は地元でも札付きの悪で、暴力や万引きは日常的な奴だったらしく、巷ではこいつがホームレス狩りの犯人とか言われていた。
そいつの死に様は殺害されたホームレスと同じような格好で半身だけ川に浸かっていて、しかもホームレスの遺体が見つかった場所と殆ど同じ場所で死んでいたそうだ。

そのせいか、その溺死した不良がホームレスを殺害したせいで呪い殺されたなんて噂が蔓延ったが真相は分からない。
警察の調べでは他殺の線も無く事件性は無いと発表したとか地元新聞や噂で聞いたが、どうやったらあんな所で溺死するんだと学校の皆は気味悪がってた。

中には不良だから酒飲んでてふざけて川で遊んでたら転んで溺れたとか言われてたけど、俺にはどうもそうは思えない理由がある。

ある日、登校中に橋を見やると、その橋の下に同校の制服を着た男子が突っ立っているのが見えた。
生い茂った原っぱから覗く上半身。
その上半身の特徴だけでも俺はその人物が溺死した不良だと確信した。
そしてどういうわけか不良が佇むようになってからはホームレスのおじさんを見かける事はなくなった。

まあ、俺しか見えていないようだから真実は分からないが、俺はホームレスのおじさんが犯人の不良を同じ目に遭わせたのではと考えている。
その不良は俺が他県に就職が決まって地元を出ていく日までずっとそこに佇み続けていた。

あれからもう七年になるが、最後に帰省した二年前も橋の下でその不良が佇んでいたのを見かけた。
こういうのを因果応報というのだろうが、あの不良はいつまであの場所に囚われなければいけないのだろう。
今度帰省する予定だが、あの不良はまだあそこで佇み続けているのだろうか。