名前も思い出せない

小学校の頃、数人のクラスメイトに虐められている子がいました。

その子は山の上に家があり、いつも山から徒歩で登校してきました。

服も靴もボロボロで、いつももさっとした髪の毛で顔が隠れています。

そのせいで苛めにあって、女の子なのに「臭い」なんて言われてからかわれているのも何度も目撃しました。

私はその子が少し可哀そうで、少しだけ話をしたことがありました。

ちょっと変わってはいるけど、普通にしゃべれたし、みんなが言うような変なにおいもしませんでした。

それに顔もよく見たら綺麗なのです。

なぜこんなに虐められているのかと疑問に思うくらいです。

だから私はこっそりとその子を見るようになりました。

そのときに不思議に思ったことがありました。

普通、人の影というのは一人に1つだと思います。

だけど、その子はいつも一人で行動していたのに、足元を見ると影が2つに分かれて見えたのです。

だから私は正直にその子に「どうして影が2つあるの？」と聞いたことがありました。

その子は目をぱちくりして私を見ました。

そして私に「ばれちゃった」と言ったのです。

翌日になって、そのクラスメイトは学校に来なくなりました。

登校拒否かと思って、担任に聞いたら担任は「誰の話？」ていうのです。

私は訳が分からず、クラスメイトの特徴を話しました。

それでも先生は「誰の話？」と、再び聞きました。

そこで私は気づいたのです。私はそのクラスメイトの名前を覚えていませんでした。

あの日まで私はその子がクラスメイトだと信じて疑いませんでした。

いじめられっ子のクラスメイトだと思い込んでいました。

でも自分のクラスにはそんな子いなかったことに気づきました。

後で調べたことですが、あの子が住んでいたはずの山の上には人が住めるような集落などはなく、昔は神様が祭られていたそうです。

以前はそこに何かものをお供えする人も多かったらしいのですが、今は遠いお堂にまでお供え物をしに行く人はぱたりと減ったそうです。

もしかしたらあの子は神様だったのかもしれないと私は思っています。

だから人にはない2つの影があったのではないでしょうか。