奇々怪々 お知らせ

心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

吠える犬のいる浜
長編 2022/11/26 12:01 1,940view

叔父たちのせいでもあるまいに、とは口には出さなかった。
遊具の天辺まで追い詰められた友人は、泣き声を聞いて駆けつけた叔父と兄に救出された。兄が犬を落ち着かせ、遠い所で構い倒して気を引き付けてくれていたが、動転した気が治らない友人は地面に降ろすなと泣きじゃくり、叔父は苦笑のまま小学校低学年というそこそこ重い子供を帰りまで抱え続けることになったという。

「兄貴も当時の話したら笑ったよ。『お前の自業自得だろ』って」
「まあともあれ無事で良かったんじゃないか?犬に襲われる前に助かって。飼い犬だと、他人を襲っていたら厄介なことになっていただろうからな」
「ああ、それは兄にも言ったんだ。ちゃんと礼も。そしたらさ、」

ああ、そうか。そうだな。

お前には犬しか見えてないよな。って。

「…犬しか、とはどういうことだ。あの場に、『犬以外の存在』がいたというのか?」
「俺も気になって問いただしたんだよ」

続きを言うか迷う様子の兄に、友人が引く気はないぞと目で語れば、「もう時効だから話すけど」とため息混じりに兄は口を開いた。

あの時、叔父たちは一応友人に気を配っていたらしい。海に入って行かないように、敷地から出て車通りのある道路へと行かないように。泣き声が聞こえたのは、釣果を語り合いながら片づけと帰りの準備を進めている時だった。
慌てて2人が公園の方へ向かうと、遊具の上の方でうずくまり泣きじゃくる友人。その背後に、

「2メートルは超えてそうな大きな影が、柵向こうから俺の服の裾を掴んでたらしい」

全身は日光の当たっている部分もまっ黒。胴が長く、手や足は異様に短く小さい。顔と思しき部分には目は無く、歯並びの悪い口がモゴモゴと何かを呟いていた。

影は柵の向こうから顔を覗かせ、友人の服を掴んで引っ張ろうとしているように見えたが。
引く度に犬が吠え、その声に怯えて上手く引っ張れない様子だった。

「あの辺りじゃ有名な話だったみたいだ。遊泳時期を過ぎてあの浜に近づくと、黒い影が引っ張って、海に引き摺りこんで溺れさせてしまうって。兄貴がさ、『あの犬、ちゃんと躾もされてて良いヤツだったぞ』って。2人が来るまで俺を海に近づかせなかったんだって」
「吠えてたのも、後ろにいた影に向けてだったってことか?」
「飼い主の近所のおばあちゃんも言ってたみたいよ。この時期には浜や海に行って子供とよく遊んでるって。そうやって守ってたんだろうな、子供を」

友人は兄の話になんと返せばいいかわからなかったそうだ。もう20年近く昔の話だ。あの海へ行ったとしても恐らく犬はいない。当時にこの話を兄から聞いたとして、泣きじゃくる自分がうまく理解できたとも思えない。そういうのを加味すれば兄と叔父が箝口令を敷いたのもわかるが、それでも。

「時効なんか過ぎるのを待たないで、あの時全て話してほしかったなぁ」

友人はこの話を聞いた今も、相変わらず犬が苦手なままなのだそうだ。

2/2
コメント(1)
  • 優しい…

    2023/03/12/19:18

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。