同じ趣味を持つ友人M

　今から数年前、実家から電車で1時間半かけて大学に通っていました。

　僕はあるロックバンドが好きでライブがある度にそのバンドについてつぶやいていました。何度かつぶやきをしているうちにMがSNS上で絡んできてやり取りをするようになりました。Mとはやりとりをしていくうちに、地元や年齢が近いこと、僕が通っている大学とMが通う専門学校が近くにあることから親近感がわいてきて仲良くなるのには時間がかかりませんでした。しかし、MとはSNSのDMで交流はしていましたが、実際に会うことはありませんでした。

　僕は実家近くの某ファミレスでバイトをしていたのですが、ある2月の営業終わりにLINEを見てみると、知らない相手からメッセージが届いていました。そこには、以下のようなメッセージが届いていました。

　「ちょっと怖～いお話。」

　【画像を送信しました】

　「これどこだかわかる？？？(笑)」

　そのメッセージに送信されていた画像には某ファミレスの玄関とお店のロゴがありました。しかも周囲の情景はまさしく僕のバイト先。最初は友達のいたずらかと思いましたが、DMにはMからのメッセージが届いていて状況を理解しました。LINEの主はMでした。

　MとDMでやりとりはしていましたが、バイトのことや個人情報(当時彼女がいたが、友達や彼女にすら誕生日も教えていなかった)に関わることは一切話していなかったにも関わらず、わざわざMの地元の某ファミレスではなく僕のバイト先に一人で来て3時間も探していたという旨のメッセージがMから届いていました。幸いその日のシフトで僕はキッチンの担当だったのでMに見つかることはありませんでした。
そのあともやりとりは少し続けましたが、僕の誕生日をMに祝われたことが怖くなり、噓をついて、留年して大学を辞めて働くのでSNSもやめると伝えてMとの交流を切りました。

　1年後、Mの存在を忘れていた頃、大学の友達とライブに来ていました。開演3時間前に会場に着きライブ仲間や友達とライブやバンドのことを楽しく喋っていました。友達がトイレに行きたいと言い出したので僕も一緒に付いていきました。

　トイレまで歩いていると、僕と同じ年頃の女性がジッとこちらを見ていました。一緒にいた友達がイケメンだから見とれているのかなと平和なことを考えていたら、急に僕の足が止まり冷や汗が噴出して耳鳴りがしてきました。本能的に危険だと感じたのでしょう、早く友達の元に向かうべく早歩きでトイレに行こうと女性の前を通り過ぎようとしたとき耳元で「やっと見つけた。」っと聞こえ、声のした方を反射的に見ると二ヤリと笑って「もう逃がさない。」と女性は言いました。なんとかトイレに着き友達に事情を話しました。トイレから出ると女性の姿はなくなっていました。

　ライブをしっかりと楽しみ友達と帰るために駅までのエスカレーターを降りていると、首や背中に何かが当たるのを感じました。ライブ終演後で、帰宅する人の人混みもあり気にしていませんでした。友達とも別れ、駅のベンチに座って電車を待っていると時折誰かに背中を撫でられたり、生暖かい風を首元に感じました。首筋に何かを感じて振り返るとそこには先ほどトイレの近くにいた女性が僕の後ろに立って見下ろして、「やっと気づいてくれた。私のこと覚えてるよね、Mだよ。」とニヤリと笑って言いました。Mはエスカレーターからずっと僕をつけていたようでした。

　頭の中が真っ白になり固まっていると、Mは話し出しました。首や背中に当たっていたものはMの息や舌でいつ気づくのかを楽しんでいたと。バイト先に来た数日前に変わったことはなかったか聞いてきました。いくつか思い当たる節はありましたがそのすべてがMの仕業でした。そして、DMでやりとりをする中で僕に好意を抱いたから結婚したいと言い始めました。

　Mが話し始めて5分くらいでようやく電車が来て急いで電車に乗り少しでも人の多い車両に逃げました。最寄り駅から少し離れた駅で降りてタクシーで家まで帰りました。帰宅後すぐに風呂に入ると背中に痛みを感じました。鏡で確認すると背中に切られた跡がありました。風呂から上がって寝る支度をしていると、知らないアカウントからDMが届いていました。そこには、

　【画像を送信しました】

　「ふふふ」

　とあり、画像を見ると血の付いたナイフをMが舐める仕草をしていました。
　それ以降、僕はライブにもあまり行かなくなり、SNSもあまり開かなくなりました。