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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

池を求めて歩く者
長編 2022/10/16 12:09 3,238view
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友人の両親は本当に何も感じていない様子だった。
だから子供たちの心境がそんな感じの中、用事を組んで家を空け、兄弟だけで一晩留守番させたのも無理はないと友人は笑った。

「兄弟で本気でビビってたからさ、外が明るいうちに風呂とかも全部済ませて、子供部屋に立てこもったんだ。ご飯とかおやつとかも子供部屋に運んで、ドアに鍵はついてなかったから内側からおもちゃ箱で塞ごうって弟と打ち合わせした」

勘ではあったが、友人には「今夜、アイツが来る」とわかっていた。幼い兄弟にとっては決死の籠城だっただろう。念のため窓の外も警戒して、気を張る中で夜は更けていった。

「結構夜中だったな。弟が『トイレいきたい』って言い出して、さすがに子供部屋にそんな用意はしてなかったから、廊下や他の部屋の電気も全部点けて2人で行ったんだ」

気分はホラー映画の登場人物だ。周囲を警戒しながら進み、弟を押し込んだトイレの前に立つ間も辺りを見渡す…この時間すら怖かった。
しかしそうして気を張っていたおかげで、普段なら聞こえない音が響いているのに気付けた。…まあ、気付いてしまったとも言えるが。

片っ端から点けた電気の下、煌々と照らされた玄関の土間。
いつか扉の外で見た水溜まりが広がり、一定間隔を保って水が上から滴り落ちて波紋を作っていた。
雨漏りだとは思わなかった。

何せ当時、外では雨なんて降っていなかったし。
勇気が無くて向けなかった上の方から、べちゃりと音がしたので。

背後のトイレのドア向こうから水を流す音と、鍵を開ける音が聞こえたと同時に、友人は弟をトイレから引っ張り出し2人で子供部屋に転がり込んだ。今冷静に考えれば、家の中で唯一施錠できる背後のトイレに逃げ込んだ方が安全ではとも思えるが、如何せん友人も弟もトイレという場所を無条件で怖がる年頃、足は自然と物理的より精神的に安心できる自分たちの要塞に向かった。
バリケードを作り、悲鳴を上げないように互いの口を押さえ息を潜める間も、家の中心に通る廊下からはべちゃ、べちゃ、と水を含んだ足音が聞こえた。
バン、と窓を叩く音。
家の中を得体のしれない何かが闊歩しているという不快感、恐怖。
いつ終わるかわからない、確認しに部屋の外に出ていいのかもわからない未知への不安。
明け方まで親が帰ってこない絶望。
兄弟の緊張と気苦労は一晩続いた。

翌朝、帰ってきた両親が見たのは子供部屋で震えながら籠城する子供たちと端から端まで水浸しになった廊下だった。最初は荒れた子供部屋の様子を叱ろうとしたが、子供たちの怯え具合と廊下の状況から不法侵入者の存在を疑った。しかし廊下の水の跡を見た友人が泣きじゃくりながらも今まであった出来事を伝え、いわくあまり上手く説明できてた気はしないが、それでも親なりに子の精神面や主張を汲み取ろうとしたのだろう。両親が呼んだのは警察ではなく近所の寺の坊さんだった。

「坊さんが俺らから話を聞いて、家の中と外見て回って、俺と弟は部屋で遊んでたけどその間に読経したり色々したみたい」
「…色々、とは、庭の池の水を抜いたり?」
「まあ、そうね。…やっぱお前は勘付いてたかぁ!」
「色んな観点から見て、よほどの条件が揃えられなければ庭に池は作るべきではないと考えられているんだ。風水や家相学の点もそうだが、単純に湿気が溜まり菌が繁殖しやすく家や住人に影響をもたらす、とね」
「池作っていい条件って?」
「日当たりが良い方角と、常に清潔な水が循環できる設備…あと、家屋から十分な距離が取れている事が望ましいな」
「あー、全部無理だったわ」
「メダカもポンプ付きの水槽の方が住み心地良かったかも」
「ん、実際坊さんのお祓いの後そうなったわ」
「ただ、家の中と外を闊歩してた存在は…風水だけが関係してたわけじゃなかったんじゃないか?」
「坊さんからもそう説明されたよ」

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