真っ赤なワンピースを着た女

それは、すでにドッペルゲンガーという言葉が定着している今にはおよそ想像だにできない、そのような言葉が生まれる以前の話。

私は小学校の頃から快活な性格であり、特に内気な性格ではなく外に出て遊ぶことが好きな人でした。大学に進んだ私もそのような運動クラブに属しており、サークルでの活発な体験は体を動かすことが好きな私の性格を形成していきました。

そんなある日の出来事、サークルで汗を流し家路を急いでいるそんな時でした。信号待ちで原付を止め何となしに歩行をする人を見ていたのですが、その中に真っ赤なワンピースを着て白色のハットをかぶった女性がこちらを振り返ったのです。

なんとなしに見たその彼女、服装が派手だったということもあったのでしょう。真っ赤な口紅が特に印象的で、私のことを見てにっこりと微笑むその姿に私は知り合いなのかと思い軽く会釈をしたのです。後ろを振り返ると誰もいない。紛れもなく私にした笑顔だと思い会釈をしたのですが、次の信号で待っている時また彼女が現れたのです。

驚いた私、その先ほどの交差点から400mほど進んだ先ですので、もちろん原付のスピードに合わせて走ってくるということは到底できないでしょう。

足元を見ていませんがおよそハイヒールでは走って来ることができない距離であり、例えそのハイヒールを脱いで裸足で走ったとしても400ｍ先にある交差点に再び原付を追い越して現れるということはできないはずです。

そしてその女性、先ほどと同じように私のほうを見てニコリと笑うではないですか。

うすら寒くなった私は、怖いという思いで彼女を見て再び家路を急いだのです。本当ですとそこから私の家の近くに現れるのでしょうが、その女性をその後全く見かけることはなくなったのです。

しかし、私が大学を卒業して社会人になったとき、営業車に乗っていた私は、その同じような女性が同じような真っ赤なワンピースを着て私ににっこりと微笑んだ姿を見つけたのです。

彼女を見たのはそれが最後ですが、いったい誰だったのでしょうか。