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ヒトコワ

とくのしんさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

コワイヨタスケテ
短編 2022/06/13 17:32 4,483view
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同僚のMが「昨日怖いことがあったんです」と打ち合わせのときに雑談混じりに口を開いた。聞けば住んでいるマンションの隣の住人による恐怖の夜を明かしたという。

時間は少し遡り1週間前。夜中の12時くらいに、隣の住人が「怖いー怖いー!助けて!助けてー」などと喚き散らし始めた。何事かと思ったが、一人で叫んでいるらしく、争ったりするような気配はない。早朝にベランダに空き缶やら空き瓶を片付ける騒音で目が覚めたりすることもあり、酔っぱらった勢いで叫んでいるのかと思ったそうだ。隣の住人のことはよくわからないが、入れ替わり立ち替わり色んな人が部屋に出張りしているという。この同僚はのんきで天然なため、あまり気にしていなかったそうだ。

そんなことがあった次の日、隣の部屋の玄関入口にカップラーメン等が入ったスーパーの買い物袋が下げられていた。気にも留めなかったMだが、1日2日と経ってもドアノブに下げられたまま。3日目になると袋が2つに増え、出来事があった前日には3つに増えていった。その出来事があった当日も袋は下げられたままで、腐るものがなかったとはいえさすがに不気味に感じたという

その日もMが一人部屋でテレビを見ていると、またも隣の部屋から叫び声が聞こえてきた。前回同様に「怖い怖い、助けて助けて」と叫び続けている。スマホを取り出して、話のネタにしようと思いその様子を録音する。時計の針は午前1時を指しており、声が聞こえてから1時間近く経とうというのに叫び声が止む気配はなかったそうだ。

さすがに1時間も叫び続けている状況に異常性を感じたが、通報して逆恨みされても怖いと思い寝ることにした。テレビの音量が、壁越しから聞こえてくる男の叫び声をかき消してくれるので、タイマーを付けて眠りについた。

それからどれくらいの時間が経過しただろうか?Mはふと人の気配を感じて目を覚ました。テレビの電源は切れており、オフタイマーの1時間以上が経過しているのは理解した。暗がりの中、布団を被ったまま気配を感じるベランダに視線を向けると、

部屋を覗いている男の姿がそこにあった。

一瞬叫び声をあげそうになるが必死に堪えた。男は覗いているだけでこちらに入ってくる様子はない。Mは布団の隙間から男の様子を伺い続けた。男は舐め回すように目玉だけを上下左右に動かし、部屋を物色していた。次に男はドアを開ける仕草を見せ始める。「うー」と唸りながら部屋の中に入ろうとしていた。

ドアが開かないことに癇癪を起したのか「あああああああ!」と叫びながら一発Mの部屋のドアを叩いた。踵を返し今度は手摺を伝いながら別の部屋へと移動していく。少しすると移った先の部屋から女性の叫び声が聞こえた。
男はベランダの手摺を伝いながらあちらこちらの部屋を移っていた。Mが住む部屋はマンションの4F。落ちたらひとたまりもない。

「危ないぞ!何やっているんだ!?」

遠くで年配の男性の声が聞こえる。Mは恐る恐る布団から顔を出し、時間を確かめると午前5時。
薄暗い中を散歩をしている人が男の異常な行動を見つけて声をかけたようだった。その間にも男は行ったりきたりを続けており、Mの部屋のベランダにも何度も侵入してきた。

そのうち「怖いよー!助けて!怖いよー!」と叫び始めた。

散歩の男性も「何が怖いんだ!?今助けてやるからじっとしろ!」と大声を張り上げた。
男は「助けて怖い」と叫び続けていたが、

ドサッ

その音が終焉を物語るように叫び声は止んだ。

「おい!大丈夫か!?おい!」

散歩の男性が必至に声をかけていた。
Mが恐る恐るベランダから階下を見下ろすと、男が蹲りながら何か呻いていた。
すぐに救急車がやってきて、男は運ばれていったそうだ。

「それは怖かったでしょ」
「怖いなんてものじゃないですよ。部屋に入ってくるかと思いましたもん」
「女の一人暮らしじゃそういう危険あるしね。俺は男で良かったよ」

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