夜釣りで釣ったモノ

私は夜釣りを趣味にしていました。家の近くに埠頭があり、そこがちょうどいい釣りの穴場なのです。

その夜も釣り竿とバケツを持って埠頭で魚を待っていると、だしぬけに糸が引っ張られました。

「なんだ？」

グイグイと凄い勢いで引っ張る何かに面食らい、慌ててリールを巻き取ります。しばらくは力比べが続きました。
相手の力は凄まじく、根性を入れて踏ん張っていないと海に落ちてしまいそうです。

「負けるもんかっ！」

もちろんそんな恥をさらせるはずもなく、両手で釣り竿を撓らせて魚を釣り上げました。
……いいえ、魚ではありませんでした。

「ひっ！？」

悲鳴が喉に詰まりました。私が釣り上げたのは腐敗しきって青黒くむくれた人間の右手だったのです。

即座に警察を呼びました。

「20キロ離れた町でバラバラ死体の遺棄事件があったんです。その一部ですね」
「は、はあ……でも引っ張ってたんですよ？」
「まさか！勘違いでは？」

パトカーから降り立った刑事さんは苦笑いしますが、こちらはとてもじゃないが笑い飛ばせません。

あとから思い出してもぞっとする恐ろしい体験でした。