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心霊

聖見さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

あるサラリーマンの通勤路
短編 2021/08/30 20:51 1,066view

私は実家暮らしが長く、結婚をして初めての引っ越しをしました。
新婚でしたが夫婦ともにまだ貯金も少なかったので、築30年の公営団地に新居を決めました。
実際に契約をしてからもしばらくは同居をしておらず、徐々に荷物を入れ、結婚式後に生活を始めたので、2週間ほど空き室のままにしていました。

同居をはじめてからしばらく、私は全く夜寝られないことに悩んでいました。
元々霊媒体質ということもあるのか、心霊スポットや怪談をしていたりすると体調が悪くなることが多かったので、旅行や慣れない場所で寝ることが苦手でした。
新婚とはいえ、夫も仕事が忙しくしていましたし、ベッドも新しく眠れないのは仕方ないと思っていましたが、ひとりで寝ているときに金縛りがあったり、夕飯後一人で部屋にいるとラップ音が大きくだんだん近づいてきたりと、正直あまりよくない状況でした。
部屋に盛り塩をしたり、なるべく掃除を気を付けたり風水を調べて家具を置いたりしましたが、夜眠れない日は続きました。

ある夜、いつものように寝返りを打ちながら眠れない夜を過ごしていたときのことです。突然金縛りになり、たくさんの白い物体が私と夫の上を右から左へ通り過ぎていくのが見えました。
とても怖かったのですが目を閉じることも身体を動かすこともできず、驚いて目を見開いたまたまにしていると、白い影の中でただひとつ、スーツをきたサラリーマンの姿が見えました。すると、その影が突然私の方を振り返り顔を覗き込んできたのです。真っ白な顔にマンガのようなうつろな目と、ペンで書いたような鼻と口でした。そしてその顔が私に話しかけたのか、それとも一人ごtだったのかはわかりませんが、しっかり私の脳内に声が響きました。

「なんだ、ここ、もうひとが住み始めたのか」

金属が擦れるような不思議な「音」でしたが、はっきりそう聞こえ、今でも脳内にこびりついています。
白いモヤがばーっと寝ている夫と私の上を右から左に流れていき、そのスーツ姿のサラリーマンも見えなくなりました。
夏でエアコンが効いた部屋でしたが、汗でびっしょりでしたが身体を動かすことができず、しばらく目を開いたままでしたが、そのまま私は寝てしまったようです。

不思議なことに、それ以来部屋でラップ音が聴こえることも、夜に金縛りになることも眠れなくなることもなく、不思議な現象は一切起きなくなりました。
スーツ姿のサラリーマンにとっては、ただの通り道にしか過ぎなかったんだな、と思いました。あの夜、気づいてもらえてよかった、と心底思っています。

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