【short_73】オルゴールと人形

断捨離で部屋の掃除をしていた時の事です。
押し入れの隅から懐かしいものが出てきました。
亡くなった母の形見のオルゴールです。

外国製で、けっこう立派な作り。
蓋を開くと裏側に鏡がついており、その手前のステージ部分に小さな人形を載せ、ゼンマイを巻いてスタートさせると、音楽と共に人形がくるくるとダンスを始める仕掛けになっていました。どうやって動くのか、子供のころは不思議に思っていました。

そんなオルゴールが出てきたので、懐かしくてつい動かしてみたんです。
残念ながら当時のその人形は無くなっていましたが、せめて音だけでも・・・

♪~♬~♩・・・ゼンマイを巻いてスイッチを入れると懐かしい曲が流れます。

でもその瞬間、部屋の中を「カサカサカサ」と何かが動いた気がしました。
「えっ?・・・ネズミ?・・・ゴキ?」
また「カサカサカサ」と動いてタンスの後ろに入ったような気がしました。
私はオルゴールを止めて、聞き耳を立てました。
室内はシーンとしてます。気配が消えた・・・。

と、なにかの拍子でオルゴールが勝手に始まってしまいました。留め金が甘かったのでしょうか。♪~♬~♩・・・「カサカサカサ」　「ひっ!」曲が始まるとまた動きだしました。

私はあわててオルゴールを止めました。・・・カサカサ音も止まりました。
今度はワザとオルゴールを鳴らしました。・・・「カサカサカサ」

やっぱり!!

私は静かにオルゴールを持って外へ行き、ごみ焼却炉の中に入れて火を付けました。
♪~♬~♩・・・炎の中でオルゴールの音色が響きます。
遠くからその様子を見ていると、しばらくして小さな人形がカサカサ音を立てて焼却炉の中に入って行きました。

私は急いで走り寄り、焼却炉の蓋を閉めました。
焼却炉の中から「きゃあああああ!」という叫び声が聞こえました。

「あっこれは!!・・・お母さんだ!!」
・・・それは私だけが知っている、母の断末魔の叫びでした。