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不思議体験

リュウゼツランさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

初めてのドライブ
短編 2023/02/06 12:16 3,093view
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「ちょ……おい! 一旦止まれって!」
車は止まらない。信号を無視して進んでいく。
強引に止めようとも思ったけれど、免許のない俺はどこをどうしたら止まるかなんてわからないし、そもそも運転中の人間に触れるのもそれこそ事故りそうだから、助手席から怒鳴り続けることしかできなかった。

明らかに異常だった。そして原因はなんとなく分かっていた。
こいつだ。
俺は後部座席を見る。

俯いた女は暴走運転に何も言わなかった。
それはこいつがさせているからじゃないか?

事故を起こして死んだ幽霊が俺たちを道連れにしようとしてるからじゃないのか?

俺は女を車から引きずり下ろすことも考えるけれど、ただでさえとんでもないスピードで走る車の中で動くことなんて危ないのに、後ろに行って突き落とすようなことなんてできないだろうとどこか冷静さもあって、だからこそ余計に事故の恐怖も大きかった。

「そこ……右」
十数分振りに女が口を開いた。
そして車は右に曲がる。カーブで一瞬スピードが落ちたけど、再びアクセルは強く踏まれる。
その後も「左」「右」「ふたつ先を右」など、女の指示通りに車は走る。
多分二十分位だろうか、「そこ」と指さされた先には小さなアパートがあった。
三台しか置けない駐車場に入り車はようやく止まる。

「ありがとう」と言って、一階の角部屋に入っていく女の後ろ姿を俺はぼーっと眺めていた。

友人は「じゃあそろそろ帰るか」と車を出す。
「あれ、正気に戻った?」と訊くと「なにが?」と、とぼけている様子もなく、本心から聞き返しているみたいだったので、俺は深く追求しなかった。
その後は地元に帰るまで安全運転だった。

車の自慢は続いたけど、あんな運転をされるよりは、退屈な方がよほどいい。
後日、このことを改めて友人と話したけれど、彼の中では「困ってる人を家まで送ってあげた」ということでしかないらしかった。

本当に幽霊ではなかったのか? 生身の人間だとしたら、あの時間にあそこで何をしていたのか? あの時友人は正気だったのか? なぜ静止する俺の声に反応がなかったのか……。 

疑問はいっぱいあったけど、これ以上考えるのを止めた。

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