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意味怖(意味がわかると怖い話)

リュウゼツランさんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

ふようかぞく
長編 2023/03/15 00:00 6,850view
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父は読書が趣味で、父の部屋には本棚いっぱいの小説がずらりと並んでいた。
基本的に推理小説しか読まない父のコレクションは、横溝正史や江戸川乱歩、他にもドイルやカー、エラリークイーンやクリスティーなど、日本人作家だけでなく海外のミステリー作家も名を連ねていた。

中学3年になった僕も最近小説を読むようになって、父の本棚からこっそり借りては自室で読み耽るのが日課になっていた。

いつものように、父の本棚から拝借した島田荘司の斜め屋敷の犯罪を読んでいた時のこと。
挟んであったしおりがページの隙間から落ちた。

何の気無しに拾い上げた僕は、しおりに『ふようかぞく』と父の字で書かれていることに気付く。
ふようかぞく?

スマホで検索すると『扶養家族』と出てきて、どうやら『養っている家族』みたいな意味らしい。
なるほど。でもなんでこんなとこに書いたんだろうと思いながらもう一度見直すと、その下に『和子』と祖母の名前が書かれていた。

ああ、たしかにお婆ちゃんもお父さんのお金で養ってるもんなと、その時の僕は全く気にしていなかった。

うちの家族は両親の他に、祖父母と、更に僕と兄と妹の七人家族で、犬のクロも合わせると八人の大所帯だった。
祖父母は年金を貰っていただろうけれど、実質父の収入で家系は支えられていたので、父は大変だったと思う。

でも、父がどんな仕事をしているのか僕は知らない。
以前母に訊いた時、「いわゆる普通のサラリーマンかな」と言っていたけれど、職種や仕事の内容みたいなことは教えてくれなかった。父に直接訊いてみようとも思ったけれど、下手に探りを入れていると思われて、子供のくせに親の仕事に文句でもつける気じゃないだろうなと曲解されても嫌だし、まぁ知らなくても困らないし別にいいかと、それ以来気にしてもいなかった。

ある日、認知症の祖母が車に轢かれて亡くなった。
アルツハイマー型の認知症だった祖母は、口癖のように「誰かに財布を盗まれた」と言っていて、警察に相談してくるといきり立っては、いつも家を出たがっていた。

正直、僕ら家族はそんな祖母の状態に辟易としていた。
でも祖母は自力で鍵を開けることができなくなっていたので、玄関をしっかり施錠しておけば外に出ていってしまうことはないから大丈夫なはずだと、家族のみんなは鍵閉めを徹底していたけれど、誰かが締め忘れてしまったのか、夜中にふらりと外出してしまった祖母は大通りではねられたらしい。

家族は悲嘆に暮れ、中でも一番ショックを受けていたのは祖父だった。
生きる希望を失った祖父は生気の抜けた顔で日々を過ごすようになってしまい、僕らはそんな祖父を心配した。

認知症になって僕の名前を思い出せなくなることが増えていたとはいえ、割とおばあちゃん子だった僕は、祖母を失った哀しみを紛らわせるかのように以前にも増して読書に没頭するようになった。
読み途中だった斜め屋敷の犯罪を手に取り、しおりが挟んであるページを開くと、『ふようかぞく』の文字が目につく。
そして僕は気付く。祖母の名前の隣に祖父の名前が書いてあることに。

あれ、いつ書かれたんだろう?
毎回父の部屋に戻しているので、書き込むタイミングなんていつでもあったんだろうけど、もしかしてちょうど父もこの本を読んでいたんだろうか。
でも、しおりは前回僕が読んだページに挟んであったし……。
いや、そもそもなんでしおりに扶養家族のことを書いているんだろう。
考えても詮無いし、僕は気にせず御手洗潔の活躍する様を読み進める。

数週間後、祖父が亡くなった。
祖母が亡くなってから食事もほとんど摂らなくなり、目に見えて痩せ細っていった高齢の祖父は、心不全でこの世を去った。

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コメント(4)
  • 不要家族

    2023/03/26/20:27
  • クロ・・・

    2023/04/30/16:42
  • 悲しいい。

    2023/05/26/20:18
  • 最終的にこの家族はお父さんだけになったのかな?

    2023/08/19/10:52

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