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不思議体験

リュウゼツランさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

初めてのドライブ
短編 2023/02/06 12:16 3,053view
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19歳の夏に地元の友達から連絡があった。
「免許取ったからドライブ行こうぜ」

会うのは半年ぶり位だったし、まだ免許を持っていなかった俺は二つ返事でOKした。
その日はもう夜8時を過ぎていて、もう遅いから明日にしようと言った俺に、「遅いからいいんだって。今から行くわ」と、半ば強引に話を進め、そいつは電話を切った。

30分程で迎えに来たそいつは「早く行こう」と、のんびり着替えている俺を急かした。
何をそんなに急いでいるのかと思ったけれど、車に乗り込んでみたら実に単純な理由だったと気づく。

車に詳しくない俺はよくわからないけれど、どうやらランサーエボリューションというスポーツカーを買った自慢をしたいらしかった。しかも、当時出たばかりのモデルとのことで、400万円近くしたことを感慨深そうに話し、その後もエンジンパワーがどうのとか、ボディフレームがどうだとか、全く興味のない話が続き、俺は外の景色を見ながら聞き流していた。

ふと気づけば、すっかり見慣れない場所まで来ていた。
「あれ、そういえばどこ向かってんの? 目的地は?」
「樹海」
まさか男二人で肝試しもないだろ……と辟易としたが、そいつは車を買ったら絶対一度は富士の麓の樹海に行きたいと思っていたらしい。

「なんかロマンがあるじゃん。樹海って」
そんなロマンを感じない俺は、免許を取り車のオーナーになったことが嬉しくて仕方のない友人に付き合うのもたまにはいいかと、引き続き横文字ばかりの車自慢を聞き流すことにした。

そしていよいよ山梨に入り、目的地の青木ヶ原樹海は目と鼻の先だ。
「もうこっちの右側樹海だぜ」
運転席側には木々が生い茂っていたが、深夜近い時間だったので、なんとなく木が立ち並んでいることくらいしか分からず「へー」と適当に相槌を打った瞬間、車は急ブレーキで停車する。

乱暴な運転するなよと友人に苛立ったけど、そのブレーキは適切だったとすぐに知る。
車の1m先に、女が立っていたからだ。
髪はセミロングで、多分20代半ば位の女の人が、肩からカバンを下げ、車を見ている。

何してんだあぶねーだろ! と、普段から割と沸点の低い友人がキレるのではと心配もしたけれど、予想を裏切り「どうしました?」とその女に声をかけた。
「ちょっと友達とはぐれちゃって……あの、よかったら家まで送ってくれませんか?」
女は少し低い声でそう言った。

それに対して友人は「いいですよ」と後部座席に乗るようジェスチャーで伝える。
えーいいのかよ。こんな得体の知れない人乗せて。ていうか幽霊とかだったらどうすんだよと小声で苦言を呈したけど、「いいんだよ」とだけ答えて、女が車に乗り込んだのをバックミラーで確認してから車を発進させた。

俺は色んな意味でドキドキしてた。もしかしてこいつ、あわよくばこの女とヤろうとしてるんじゃないだろうな。そんな下心を感じたからのドキドキでもあるけれど、同時にさっき自分が口にした幽霊だったら……という疑惑も拭えていないので、何か話を振られても俺はぎこちない返答しかできなかった。

女は黙っていた。まぁヒッチハイクみたいに他人の車に乗っていきなりテンション高く話すのもおかしいし、まして時間は深夜だ。もう0時近くなっていた。
家の場所を訊くも、「しばらく道なりに進んでください」としか言わず、友人は言われた通りに車を走らせた。

どれくらい経ったのか、ふとスピードメーターに視線を移すと、80キロ位出ている。
「いや、ちょっと飛ばしすぎじゃね?」
笑いながらも注意するような口調で言った俺を無視し、友人はアクセルを緩めようとはしない。
「いやいや、あぶねーから。暗いしさ」
尚も車はハイスピードで進む。もうどこを走ってるのかさえ分からない。
女も黙ったままだ。

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