誰にも渡さない部屋

友達が駆け寄って来ました。
顔面蒼白です。
「大丈夫？骨を折ったんじゃないの？救急車呼ぼうか？」
声が震えていました。
「いや、ちょっと痛いけど大丈夫」
私もあの高さから落ちて、無事なのが不思議でした。

「あのさ、あんたが落ちるときキラキラと光が飛び散ったんだけど、何だったのかな？」
光が飛び散った？何だろうと考えながらふと左手首を見ると、お守りにしてきたパワーストーンのブレスレットが、ちぎれていました。
よく、テレビなどで九死に一生を得たときに、お守りが切れる映像を見ることがありますが、てっきり演出だと思っていました。

あれは、本当のことだったのだと、ちぎれたブレスレットを見てあらためて鳥肌が立ちました。
これを付けていなかったら、どうなっていたのだろう。

神様が守ってくれるって本当にあるのだと、感謝しました。

結局、そんな事故があったので、その日の物件探検も、翌日の見学もナシになりました。
友達には、変なことに巻き込んでゴメンと、さんざん謝られました。
悪ふざけをしたのは私の方なので仕方ありません。青アザはできましたが、骨折もなく、捻挫もなく、病院に行くほどでもありませんでした。

自宅に帰り、あのときチラッと見えた例の物件を思い出しながら、頭の中のイメージで、あの家に入ってみました。
３DKの間取りの明るめの部屋に、２０代の女性がいます。
引き籠りのようです。
部屋の隅にうずくまり、背中を丸めています。
この部屋は私のものだ！
誰もいれさせない。
その女性は、何らかの理由でその部屋から出たくないようでした。

少し、心を病んでいたのでしょうか。
バスルームで、リストカットをしてしまいます。
本気ではなかったので、ためらい傷でしたが、バスルームを汚してしまいました。

彼女の両親は激怒して、無理やり実家に連れ戻しました。
彼女の心だけが、その部屋にしがみついているようでした。
この部屋だけは、誰にも渡さない。
私が住み続けるのだから。
この部屋を奪う奴は容赦しない。
彼女の執念は凄まじく、私の心にも強烈に刺さりました。
ああ、この部屋は彼女の心が鎮まるまで、絶対に手を出してはいけない。
ほんの少し興味を持って見に行こうとしただけで、階段から突き落とされるのだから。