奇々怪々 お知らせ

心霊

Nさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

賃貸の一軒家に引っ越した結果
長編 2022/12/17 23:03 13,804view
1

「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

そこにはこの前のように部屋の隅で丸く蹲っている妻が頻りに何かに謝罪を繰り返していた。

その光景を見てさすがに妻の精神状態がヤバいものだと思い知った。
念の為ベビーベッドを覗き込めばスヤスヤと眠っている赤ん坊が居たので、こっちはこっちで無事が確認できて安堵した。

だが、問題は妻の方だ。

俺は妻の前にしゃがみ込んで「俺だ。分かる?帰ったよ」と両肩をなるべく優しく掴んで目を合わせて伝えた。
妻はしばらく「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返していたが、すぐに目の焦点が合うと、途端に柔らかい表情を取り戻して「あ、夫君、帰ってたんだ」と惚けた事を言い出した。

これはいよいよ病院に行かせた方が良いと思った時だった。

ガタッ。

クローゼットの方から物音がしたのだ。

不意に以前、妻が寝室に誰か居るとパニックになってた事が思い起こされた。
まさか本当に侵入者が居て、そいつが妻をこんなにしたのか?と頭の何処かで不安が過った。
俺は妻に「じっとしてて」と言い放つと、立ち上がってクローゼットに近寄る。
身の回りに武器になりそうなものがなかったので、ベッドの枕を盾代わりに拾ってクローゼットの扉を開けた。

だが、今回もそこには誰も居なかった。

今の物音はここからじゃなかったのか?
聴覚が衰えたのかと思いながら、部屋の電気を点けてみると、クローゼットの中の床に玩具が転がっている事に気が付いた。
手に取ってみるとデフォルメされた可愛い感じの猫型のラトルだった。
赤ちゃんが振ると音が鳴るあの玩具だ。
そういえば、妻が妊娠した時にこんなものを買った事を思い出した。

妻には気が早すぎだと笑われたが、こんなところにしまっていたのか。

でも何でこんなものが裸で置いてあるのだろうか。
荷ほどきしたときは目にしなかったが、妻が置いたのだろうか。
それに今の物音はこれが落ちた音なのか。

考えれば考える程不思議だったが、振り返って妻の方を見れば、いつの間にか妻はそこに居なかった。

「…妻子?」

慌てて二階から飛び出して名前を呼ぶと、リビングの方から「なにー?」と妻のいつもの調子の声が聞こえて来た。
いつの間にリビングに降りたのだろう。
何だか考えれば考える程にドツボにはまりそうだった俺は、赤ん坊を抱き抱えてリビングに降りる事にした。

それからは妻もいつもの調子に戻っていて、明日の休みは実家に戻り地元の友達と食事でもする計画だとウキウキした顔で俺に話してくれたので、俺も「楽しんできなよ」と言っておいた。

3/8
コメント(1)
  • いや怖いよ

    2022/12/20/10:07

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。