不思議な手紙

家の近くで不審な行動をしていたあの日から一度もストーカーのことを見ていません。

そんな急に相手に興味がなくなるなんてことはあるのでしょうか。

あの不思議な手紙が届いてから数日で、ストーカーは私の前からいなくなりました。

あまりに自分に都合が良すぎて、ストーカーがあの後どうなったのか想像して怖くなりました。

今更だけど、あの手紙は返事を書くべきものじゃなかったかもしれないと一時は思ったのです。

あれから数年後に、郵便受けに匿名で手紙が届いたことがありました。

見つけた瞬間にあの手紙を思い出して、慌てて開けたのです。

そこには前と同じく達筆で、「ご利用ありがとうございました。

」の一言のみの手紙がありました。

そして一緒に紙切れが入っていたのです。

開くとそれは切り取られたような古い新聞記事でした。

それを読んで私はぞわっと身の毛がよだちました。

なぜならそこにはバイト先で男に刃物で数か所切り付けられ、命を奪われた大学生のストーカー事件の内容が書いてあったのです。

名前のところだけが黒く塗りつぶされており、分かりませんでした。

ただ自分とまったく関係ないものとは思えませんでした。

もしかしたらあの不思議な手紙は私の運命の分岐点だったのかもしれません。

私は今生きていますが、もしかしたら私が生きていない時間軸もあったんじゃないかと思うのです。

あのときにあのストーカーを野放しにしていたら、きっと今いないのは私のほうだったのだと思っています。

ストーカーのあの人の行方は分かりませんが、どうなっていたとしても今の私はあの手紙に返事を出したことに何も後悔していません。