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不思議体験

サクコウさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

在庫の確認
短編 2022/10/15 23:42 2,097view
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大学生の頃、書店でアルバイトをしていた。
今から15年くらい前かな。首都圏の本屋で、電子書籍や漫画アプリなんてまだ影も形もない時代、店は毎日忙しかった。
品出しやレジのほか、電話対応も業務のうち。
用件のほとんどは客からの在庫の問い合わせなんだけど、あるとき、少し変わった電話がかかってきたんだよね。

「はい、○○書店です」
「ピーッ、〇時〇分です」(時報のような電子音)
(えっ、なんだ、時報?)「もしもし?」
「ーあ、すみません、在庫の確認をお願いしたいのですが」
男の声。後ろで、沢山の人のざわざわとした声が聞こえる。なんとなく、屋内の広い空間なのかなと思う。
「はい、書名を仰ってください」
「作者が●●の△△というタイトルです」

PCのデータベースで検索するが、該当の作品はヒットせず。
「えっと…、申し訳ありません、●●の△△という作品は出版されていないようなのですが…」
「ーあっ、そうですか」
「作者かタイトルのどちらかが違っているのかもしれませんが、詳しくお調べしますか?」
「ーいや、そこは間違えていないはずなのでー。でも、ないなら、いいです」

月に一回の頻度でそんな電話を受けるようになった。
毎回別人からで、探している本も、性別も年代もバラバラ。
共通点は、話し始める前に謎の時報があることと、いつも電話の向こうにざわざわとした雰囲気を感じること。

初めは特に気にしなかったんだけど、段々と違和感が強まっていった。
そもそも在庫の確認を求めてくるお客さんっていうのは、タイトルや著者名を割と正しく伝えてくれることが多い。
もしくは、「表紙が黄色っぽくてかなり昔に出版された猫の写真集を探している」みたいな、ふんわりとした問い合わせ。

(こういうのは調べるのが大変だけど)
著者名もタイトルもハッキリ言えるにもかかわらず、この世に存在しない本を探している人間が複数いる事実に、段々気味が悪くなっていった。

イタズラか?と思ってバイト仲間に相談してみると、どうやらその謎の問い合わせを受けているのは俺だけのようだった。
向こうの話し方はいつも丁寧でクレーマーでもないから「もう止めてください」とは言えず、なんだかなって思いながら
大学卒業までその店でバイトして、謎の電話も対応してた。

結局、存在している本の名前が挙がったことは一度もなかったよ。

あれから、就職して月日が経ちそんなことすっかり忘れていたんだけど
最近ひょっこり、当時のバイトで使っていたメモ帳が出てきたんだよね。
レジの操作とか品出しのタイミングなんかのメモに紛れて、例の問い合わせを受けた時のタイトルや著者名の走り書きがいくつもある。
懐かしいなーアレ結局何だったんだろうなーって眺めていたんだけど、ふと、アレっと思った。
つい最近読んだ新刊のタイトルが出てきたから。
まさか…と思って、メモにある他のタイトルをネットで検索すると、発行年はバラバラだけど、俺が社会人になってから何冊も出版されている…。
そう、俺があの店を辞めてから…。

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コメント(2)
  • 想像の上を行くラストでした。怖くはないけど。

    2022/10/16/18:10
  • 面白い。

    2022/10/16/21:33

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