駅で取り憑かれた話

途端、強い力で体がグンと引き寄せられる。

その時、周囲が騒然となったのを覚えている。
怒声が鳴り響いた後、俺の体は今度はホーム側に引っ張られて盛大にずっこけた。

そして、俺は知らないおっさん連中にめちゃくちゃ怒られた。

なんでも、おっさん達は俺が電車に飛び込もうとしたのをすんでの所で引き止めるのに成功したらしく、俺がおっさん達に引き寄せられた直後に電車がやってきた。

俺が「いや、俺も人を助けようと…」と混乱しながら話せば、自殺なんかすんじゃねえとかさんざん怒られた。
それにどこを見てもさっきまで俺の腕を掴んでいたはずの女子高生が何処にもいない。

そんな中、俺は女子高生を助けようと思って飛び出したのに怒られるとは理不尽だと思いながら全力でおっさん達に謝罪したが、それ以上にホームが騒がしくなったので次第におっさん達も「なんだ？なんだ？」と辺りを見渡し始める。
俺も正座しながら様子を窺っていると、アナウンスで人身事故の案内が流れた。

実は俺がおっさん達に助けられたすぐ後に、事故が起きてた。

後日新聞で知ったが、亡くなったのは若いサラリーマンだった。
一歩間違えれば俺が死んでいたであろうその電車に轢かれたそうだ。
因みに、目撃証言によると何か狼狽えるように「わ、わ、わ」なんて情けない声を上げながら突然線路に飛び込んだらしい。

その事を知った俺は青ざめた。

何故なら、俺も今の今まで電車に飛び込もうとする女子高生に腕を掴まれて一緒に電車に轢かれるところだったからだ。
亡くなったその男性も何かが見えて、何かに引っ張られてしまったのかもしれない。
そう思うと他人事とは思えなかったんだ。

俺は運よくおっさん達に助けられたから良かったが、あれが一人だったらと思うと背筋が凍る。
一応、お祓いをしてくれると言ってくれた寺に予約は入れているが、果たして効果はあるのか少し心配になってきている。
それにお祓いを受けるまで俺が生きていられる保証はあるのだろうかと不安は減らない。

お祓いまで二日ある。
それまで電車は控えてタクシーを利用しているが、出費が痛い。
背に腹は代えられないが、早くお祓いをしてもらって気を楽にしたい所だ。