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不思議体験

偽美さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

人間ではない何か
短編 2022/06/28 18:26 935view

あれは、小学三年生の夏休みでした。

私の家の隣には、小さな森があります。その森のずっと奥に、お地蔵さんがあるのです。その日も私は、友達と遊ぶ約束をしていましたが、朝から熱を出して寝込んでしまいました。

「大丈夫?」

お母さんは心配そうに言いながら、氷水の入った洗面器を枕元に置いてくれます。

「うん……」

私は布団の中でうなずきました。頭が重くてだるくて、とても起きられません。

「じゃあ、今日は家にいなさい」

「ごめんね……」

「いいのよ。気にしないでゆっくり休みなさい」

お母さんは優しく言ってくれるけれど、私は申し訳なくてたまりませんでした。せっかく遊びに行くはずだったのに、熱を出してしまうなんて……本当に自分が情けなかったのです。しばらくして、私は眠りに落ちてしまいました。次に目が覚めたとき、外はもう暗くなっていました。お母さんの姿が見えないので呼んでみようかと思った瞬間、ふっと意識がはっきりしました。

(私、寝ちゃってたんだ)

時計を見ると、夜の七時を過ぎています。お母さんはまだ帰って来ていないようでした。その時、何か物音が聞こえてきたような気がして、私は耳を澄ませました。すると確かに、カタンという音やザッザッと草を踏み分ける足音がします。それは隣の森の方角から響いて来るように思えました。

(誰かいるのかな?)

私は不思議に思いました。この辺りでは、夜中に森の中に入る人はほとんどいないはずなのです。それにあの森の中にあるお地蔵さまのお堂へ続く道は、大人でも怖がるような暗い場所だと聞いていました。だから、昼間だって滅多に通らないのです。なのに今は、明らかに人が歩いている気配がするのです。しかもその人たちは、お堂とは反対方向に向かって歩いていたのです。

(どこへ行くのかしら……?)

私は好奇心を抑えきれず、そっと部屋を出て行きました。音をたてないように階段を降り、忍び足で玄関に向かいます。そして扉を開けると、そこには誰もいませんでした。私はほっとして外に出ました。家の前の道を少しだけ歩き、左右を見回してから森の奥へと入っていきました。そこは真っ暗でしたが、月明かりのおかげで足元は何とか見えました。しばらく行くと、遠くから話し声のようなものが聞こえてきました。私は息を殺して、そちらへ向かって進んで行きます。

やがて木立の向こう側に開けた空き地のようなところに出て、そこに数人の男女が集まっているのを見つけました。みんな二十歳くらいに見える若い人たちです。彼らは焚き火をして料理をしているらしく、いい匂いが漂ってきていました。私は何だか急にお腹が減ってきて、自分も混ざりたいと思いました。でもどうしようか迷っているうちに、若者たちのうちの一人がこちらを振り向きました。

「誰!?」

彼は鋭い声で叫び、持っていた棒を構えました。

他の者たちも一斉に振り向くのを見て、私は慌てて逃げ出そうとしました。ところがちょうどその時、月が雲に隠れてしまったのです。暗闇に包まれた私たちは混乱し、大騒ぎになりました。そんな状況の中で、私は運悪く枝を踏んだり石ころにつまずいたりしてしまい、転びそうになって近くの木の幹にしがみつきました。そのときです。いきなり背中を強く押されたのです!

「きゃあっ!」

私は悲鳴を上げながら前に倒れこみました。地面に顔をぶつけて痛かったけれど、それ以上に怖くてたまらなくなりました。しかし、私の身体はそのまま地面の上を滑るように動いていったのです。驚いて目を開くと、すぐ目の前に大きな手が差し出されていました。

「大丈夫かい?」

優しい男の人の声が響きました。それが私を助け起こしてくれた手の持ち主だったのでしょう。私は彼に抱き上げられ、そのまま彼の腕の中にすっぽりと収まっていました。

(わあ……)

私は驚きのあまり言葉を失っていました。というのも、その人は全身が透き通っていたからです。向こう側の景色が見えるほどに……。

「怪我はないみたいだね」

青年は安心したように言いました。でも、私は返事をするどころではありませんでした。その青年が明らかにこの世のものではないとわかったからです。

その後無事家に帰ることができたので家族にその話をしたのですが誰も信じてはくれませんでした。しかし私は彼らは人間ではない、精霊か神のようなものだったと信じています。

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