殺意の矛先
投稿者:狐の嫁入り (6)
「後で兄貴の分作ってやればいいしな」
松原さんは独り言を零し兄の夕飯を頂く事にした。
「頂きます……」
手を合わせ箸を魚の白身に付け口に入れた。
追いかけるように白飯をかき込み、味噌汁で口の中を胃袋に流し込む。
空腹感が徐々に解消され、松原さんの険しかった表情が和らいでいく。
その後も食事を進めていくと、魚はほとんど骨身になってしまった。
だが松原さんには一つ楽しみがあった。
それは頭の部分にある目玉だ。
彼はこれが大好物だった。
箸で器用に目玉を取り出すと、煮汁に浸しそれを箸で掴もうとする。しかし。
ポロリと箸から目玉が零れ落ちた。
再度箸で目玉を掴む。
だが、目玉はそれに抵抗するかの様に滑り皿の上を転がった。
その瞬間、松原さんの心に不思議と湧き上がる感情が芽生えた。
怒りだ。
普段ならこんな事で腹を立てる様な松原さんではない。
しかしなぜだかその時は違った。
無性に腹が立ったのだ。自分でも抑えられないくらいの。
松原さんは再び箸で勢いよく目玉を掴んだ。
だが目玉はまたもや転げ落ちてしまった。
苛立ちが募り松原さんの眉が吊り上がっていく。
「何だよくそっ……」
吐き捨てるように言いながら彼は箸を目玉に向けた。
その時だ。煮汁に浮かんだ目玉が一人でに動き、松原さんをじろりと見つめた。
有り得ない異常な光景。
彼はそれにぞくりとし目を見開く。
しかし、何故か驚きはしなかった。
それよりもむしろ、怒りがそれを上回っていたのだ。
しかも最早怒りを通り越し、恨みや殺意にも似たドス黒い感情が松原さんを支配していた。
自分を制御出来ない……。
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