アパートの知らない子

昔少しの間だけ住んでいたアパートがあります。

そのアパートは何かが居るアパートだったと思います。

その頃は夫と離婚して、母一人で子育てしようと奮闘している毎日でした。

家で子供と一緒にいてあげる時間があまり取れないことに胸が痛かったです。

だから娘が言っているのも、てっきり私に構ってほしいからだと思ってしまいました。あのアパートにはきっと何かが住んでいるのです。

娘はしきりに「ベッドの下に女の子がいる」とか「トイレで話しかけてきた」とか、「窓から手を振ってくる」とか不思議なことを言っていました。

私が構ってあげる時間がないせいで、母親の気を引きたくてこのようなことを言っていると最初は思っていました。

だけどある日、娘の手首に青あざのようなものがあったのです。

「どうしたの？」と聞くと、「知らない子にあっちに行こうと引っ張られた」と言うのです。

最初は子供の戯言かと思っていました。

でもある日家に帰ると、子供がベランダの手すりに座って下を見ていて、ぞっとしました。

慌ててベランダにドアを開いた瞬間に、子供部屋から「ママ？」て声が聞こえ、「え？」となりました。

振り返ったら子供部屋からうちの子が出てきて、もう一度ベランダを見たけど、ベランダには誰もいなかったのです。

それから詳しく子供に聞いてみたら、「知らない子に一緒に行こうとよく誘われる」と言いました。

さっき見た子供はもしかしてその知らない子なんじゃないかと私は思えてならなかったです。

それから少しして思い切って、そのアパートを引っ越ししました。何かがいる気配に怯えたためでした。

引っ越してからは子供がこのようなことを言うことは一切無くなりました。

きっとあの部屋には誰か知らない子がいたんだと私は思います。

もしあのまま住んでいたら娘が奪われていたかもしれないと思うと、早くに気づいて良かったと心から思っています。