死にたがりの生配信

数十分後、うがいを終え、水分を少し補給して戻ると、配信はまだ続いていた。
未だに自分の首を捻じ切った状態で固まっている男性を顰め面で捉え、椅子に座り直してコメント欄を見やった。

『あとお前だけなんだけど』
『早く死ねよー』
『首ちぎるの面白いわ』

などと、一方的に誰かをまくし立てている書き込みが上段を占めていた。
しかし、書き込み時間は俺が戻る五分前のもので、つまるところ五分前から書き込みは途絶えている。

この配信者にしてこの視聴者あり、といった感想を覚え鼻で笑うと、俺はタブを閉じた。

流石底辺生配信者だと皮肉り、俺は気分転換に別の生配信を漁ることに切り換える。

すると突然新規タブが勝手に展開されたかと思えば、先ほどの男性配信者の再表示された。

「は？なんだこれ」

俺はすかさず×印をクリックしてタブを閉じる。
しかし、今度は間髪を入れずに同じページが展開された。

「……ウイルスか？くそ」

もしかしたらあの配信者がウイルスを仕込んでいたのかもしれないと思った俺は、何度もタブを閉じては展開されるといったやり取りを繰り返した後、とうとう諦めて表示された配信を暫く見守ることにした。

すると、千切れた首を支えたまま硬直していた男性の口が動き、

「あなたはいつ死ぬんですか？」

と、まるで画面越しに俺へ直接語り掛けるように語り掛ける。
害意を孕んだ瞳に、赤黒い液体をぶちまける口で、確実に俺へと投げかけた言葉。

俺は思わずパソコンの電源を強制的に落とした。

さすがに電源を落としたモニターには、あの配信画面は再表示されないようだ。

その晩、俺は一睡もできずに朝を迎えることになるが、活気の溢れた早朝の内に再び電源を入れて例のサイトを立ち上げた。
あの生配信はなんだったのか、あの後どうなったのか確認しなければ安心できなかった。

しかし、いざサイトを立ち上げ検索をかけるがあの配信者のページは出てこない。
それどころか履歴から遡ろうともページ自体が存在しないのか『指定されたページは存在しません』という、ネットを知っている人種なら見慣れたページへと飛ぶ始末。

このサイトはそこそこ有名で、その界隈では大手の部類なため、本当に自殺配信をしたのならトップニュースになっている筈だ。
そう思って『サイト名+自殺』のキーワードで検索をかけるも、他の配信者のネタ動画や違うホラー映画なんかのドキュメント仕様の映像が浮上するだけで、特にそれらしい事件の記事は見当たらなかった。

この日以来、俺は生配信を漁るのは止めたが、あの配信は本当になんだったのだろうか。
俺はどこかで誤ったURLを踏んでしまいたまたまあの配信に辿りついてしまったのか。
履歴だけ見れば確実にそのサイトのドメインなのだが、配信者のページが存在しないので迷宮入りとなった。