「ねえ、起きてる？」

これは私が高校生の頃に体験したことです。

睡眠中、意識は起きているけど体は眠っている……半覚醒状態みたいなことってありませんか？
当時の私は眠りが浅いのか、よくそんな状態になり、夜中に何度も目を覚ましては、またすぐ寝るということを繰り返していました。

あの夜もそうでした。ただ、いつもと違うのは、意識が覚醒するたびに、小さな音が聞こえたことです。
最初は、家の柱や壁なんかが鳴る自然現象だと思って気にせずにまた眠っていたのですが、二回、三回と繰り返すうちに音がだんだん近付いてきました。
すると、ただの音がミシッ、ミシッと床を鳴らす足音だと分かったんです。

近付いてくる足音に動かない体。逃げ場のない状態で、ようやくコレが半覚醒ではなく、金縛り状態だと分かりました。

その間にも足音は近づいてきて、私の部屋の前で止まり、ドアが開く音がして、はっきりと私の名前が呼ばれました。「A子、起きてる？」と。

呼ばれた瞬間にぞわっと寒気を感じたので「コレには返事をしてはいけない」と思い、口を閉じ、なにも見ないし聞かなかったことにして、とにかく眠ろうとしました。

この時はただひたすら怖くて、眠るというより気絶だったかもしれませんが、気付くと朝でした。
起床したばかりなのに、運動後のように心臓がドキドキしていて夢で片付けるにはあまりにもリアルでした。

たった一度のことでしたが、今でもふと思い出し「もしもあの夜、呼び掛けに返事をしていたら、どうなっていたんだろう」と考えると怖くなります。