綺麗好きな白髪のおばあさん

気がついた時は朝になっていた。
どうやらあまりの恐怖に気絶してしまったようだ。
素早く布団を片づけ押入れにしまうと
僕は急ぎ足で田端駅に向かい始発電車で自分の住む川崎へ向かった。
自分のアパートへ戻り
鏡を覗き込んだ僕の顔の目の下には大きなクマができていた。

後日、九州の実家に帰っていた神田君にこの時の話をした。
「お前、見たとか！」

笑顔だった神田君の顔が急に強張った。
神田君に聞くと
神田君があのアパートに入居した直後から
毎日朝になると誰もいないはずの廊下から
箒を履く音が聞こえてくるのだそうだ。
霊感の強い神田君は、部屋の中でも正座した白髪のおばあさんの姿を
何度も見たことがあるそうだ。
そのおばあさんの特徴を聞くと僕の枕元に座っていたおばあさんの特徴と同じだった。

神田君が気持ち悪くなって大家さんにそのことを話すと
「ああ、前に住んでたおばあさん、綺麗好きだったからね」
大家さんはそう言ったそうだ。
神田君の前にその部屋に
綺麗好きなおばあさんが住んでいたらしい。
おばあさんのその後については大家さんは
口ごもって詳しく教えてくれなかったようだ。
神田君はすぐに田端から千葉の松戸へ引っ越した。

僕は未だにこの時のことを思い出すと
どんな夏の暑い日でもちょっとだけ涼しくなる。