ファミレスの幽霊親子

驚いて見ると、注文を受けて料理を運んで来た店員だった。その横では若い男の店員も頷いている。
しかし店長と警察官は困り顔だ。
「……えっと、あの？」
友人が戸惑いがちに聞くと警察官が頷き、店長が愛想笑いを見せた。
「ありがとうございます。もうお席に戻って下さって結構です」

顔は笑顔だが、出て行ってくれと言われているのが分かったので退出しようと立ち上がると、友人が椅子に座ったまま言った。
「もしかして、監視カメラに映っていなかったんですか？」
全員が驚いた顔で友人を見る。
「あらまぁ……」
「大変お恥ずかしい話なのですが、監視カメラが故障しておりまして、お客様に事情をお聞きする事になりました！申し訳ありません！」

店長の大声に、全員が驚く。
「監視カメラが故障していた事で、退出されたお客様の事も良く分からず、大変困った事になっておりました。あってはならない事です。今後は二度とこのような事が起こらないように徹底いたします。お許し下さい」
奇麗な九十度礼に友人を見ると、パイプ椅子から立ち上がって言った。
「そうでしたか、タイミングが悪かったですね」
「ええ、本当に」
店長と友人は笑い合う。若い男女の店員の顔には「嘘だ！」と書いてあったけれど、そこは見ない振りで退室した。

そしてテーブルに戻り、伝票を取ってレジに行くと奥から出て来た店長が「これはお詫びです」と言って五十パーセントの割引券をくれた。本日の飲食代も半額にしてくれた。
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言って店を出て、道路沿いを駅に向かう。
「気分直しに別の店に行く？」

「うん。いやぁ、あんなにはっきり幽霊って見えるものなんだね」

友人の言葉に口元が引き攣る。
「いや、監視カメラが故障していたから事情聴取されただけだよ」
「店長魂を見たわ。あれは見事だったわ」
「ただの嫌がらせ食い逃げだよ」
「顔がねぇ、全然思い出せないんだよ。女の子も母親も。幼稚園児を連れた母親が居たのは覚えているのに、服装すら曖昧だわ」
「良く見てなかったんだよ」
「あんたは良く見てたよね。顔は覚えてる？」
「……隣の席の人の顔なんて、覚えてなくて普通だよ」
「まぁね」
居酒屋に移動して、どうでもいい話をして、友人と別れた。
割引券は職場の同僚にあげて、あのファミレスには二度と行かなかった。