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呪い・祟り

イエティさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

「可哀想」と思っちゃいけない理由
長編 2021/11/08 08:43 13,660view
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「〇〇町の△△さんタヌキ捕まえたってよ。よろしく」

上司の顔面に全力の右ストレートをかましてやりたかった。
だが仕事は仕事・・・また同じように、タヌキを殺した。

秋は繁殖期なのか何なのか、そこからその仕事はみるみる増えて行った。
徐々に心が死んでいくような気がした。

田舎の人たちは「たかがタヌキで?」と思うかもしれない。
いつも道路でくたばってるのを見慣れてるだろうし、害獣には変わりない。
俺らが食う野菜を守るために駆除が必要なのも分かってる。

でも、罠に捕らえられてどうしようもなくなった犬とおんなじサイズの生き物を殺すんだよ。
専門業者でもない俺にはきつい仕事だった。

夢でも同じようにタヌキを殺していた。
殺した数が増えるにつれ、夢でも、日常の一服の時でも思い出すようになっていた。
あの1件以来夜に車で出歩けないし、日中でも細い道やタヌキが出そうな道を走るのが怖くなってしまった。

このままじゃだめだ。

ついに、上司にタヌキ駆除はもうやめたいと伝えた。

「たかがタヌキだろー?」

俺はそう言われてプツンときた。

もっと上の上司に真剣に相談するなり、実情を話すなりで改善はできたと思う。
ただ心が弱っているうえにこの発言だ。俺には耐えられなかった。

これは2週間前のこと。

翌日には俺は上司に辞表を叩きつけて辞めた。
もちろん通常業務の引継ぎなんかは手早く終えて、余った有休で3週間の休み。

それから、お寺に行って簡単なお祓いをしてもらった。

特に事情は説明せず、目を合わせただけで「お祓いですか?」と聞かれた。
その後も何も話してないのに、”悪霊とかそういったものではなく、死の直後に憐れみを向けられた動物が憑いてる”と教えてくれた。
”猫…ではないよね?何かの業者さん?”と聞かれようやくそこで事情を説明した。

今ではもう何ともない。
野菜を食うにも害獣を駆除した上で成り立っていること。
肉を食うにも誰かが殺してくれているおかげで食えていること。

タヌキも人間が生きていく上で駆除しなければならない対象なんだろうが、やはり自ら手を下すってのは正直きついもんがあったよ。
オチも何もなくて申し訳ないが、俺が経験したタヌキに関する一幕はこれにて完結。

4/5
コメント(1)
  • 怖いというよりも、恐ろしい話

    2021/11/09/07:27

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