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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

女性タクシー運転手 片桐舞子の受難
長編 2024/06/01 00:24 3,382view
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それから数日後のこと。その日も梅雨空らしい天気で一日中雨が降り続いていた。
(そういえばこんな雨の日だったな、あの男性を乗せたのは・・・)
片桐が上がり時を考えながら夜空を見上げていると、誰かがタクシーの窓を叩いた。音の方向を見ると、そこに中年男性が立っていた。見ればあの自殺をした男がそこに立っているではないか。片桐は思わず悲鳴をあげそうになった。

男と目が合うと、男は片桐に向かい軽く会釈をした。どうしようか迷ったが、逃げるわけにもいかない。片桐は仕方なく後部座席のドアを開けた。男は重そうな身体でどかっと後部座席に座り込んだ。
「すんまへん、〇〇の滝まで」
前回と同じ目的地を告げる男に、片桐は黙って車を出した。

「いやぁよく降る雨でんな」
ルームミラー越しに見る男は、以前と変わらぬ様子でよく喋っていた。自殺した男がなぜ・・・と思う反面、もしかしたらよく似た人なのかもしれない・・・片桐はそう思い込むようにした。

「こんな時間に〇〇の滝までどんな御用ですか?」
片桐は思い切って男に尋ねた。すると男は
「大した用ではあらへん。ちょっとした野暮用でんな」

と軽く答える。だが、逆にその軽さに恐怖を覚えた。学生の肝試しではあるまいに、こんな時間に軽々しく行く用事なんてあるのか?その返答に片桐は不信感を募らせた。

1時間程車を走らせ目的地に到着すると、男は1万円を差し出した。
「お釣りはいりまへん。ゆうても大したチップにはなりまへんがな(笑)」
料金を支払った際、前回と同じことを言って笑いながら車を降りた。さすがに帰りについては男に聞く気にはならず、片桐は足早にその場を走り去った。ドアミラーで男を見ると、滝の方へまっすぐ向かって行く姿が見えた。

「実はあの自殺した人がさっき車に乗ってきたのよ・・・」
会社に戻り残っていた同僚に先程の出来事を話すと、皆口々にそれは災難だったと同情の言葉をかけてきた。普通の感覚であれば、そんな荒唐無稽な話は作り話として一蹴されるだろう。しかし、タクシー運転手のベテランともなれば、一つ二つは不可思議な出来事に遭遇した経験があっても不思議ではない。皆口々に早めにお祓いに行くよう勧めてきたという。

心霊の類には懐疑的な片桐は、勧められたお祓いに行くことはなかった。
が、このあとお祓いに行けばよかったと後悔する。そう、お察しのとおりにまたあの中年男が乗車することになったからだ。

「〇〇の滝まで」
その日は雨は降っていなかったが、20時過ぎにまた乗車してきた。さすがに片桐も乗車拒否しようかと迷ったが、恐怖のあまり拒否をすることができなかった。致し方なく、男のいう通りに〇〇の滝へと車を出した。

(なんでこの男は私のタクシーにばかり乗ってくるのよ・・・)

ハンドルを握りながらそんなことを思っていると中年男が話しかけてきた。
「いやぁこんな時間にすんまへんな」
「いえ、これも仕事ですから・・・」
「そういえば、前も姉さんに乗せてもろうたの?」
会話の途中、男が以前乗車したことを尋ねてきた。返答に困った片桐だが、ここは正直に答えることにした。
「・・・え、えぇ。お客さんのことはよく覚えていますよ。確か観光でこちらにいらしたとか」
「おお、やっぱりあのときの姉さんやったか」
男は身を乗り出して上機嫌に会話を続ける。
「毎度毎度、こんな時間に〇〇の滝まで送り届けてもろうてほんま助かりますわ」
「いえ・・・こちらもご贔屓にしていただいて感謝しています」
「いや~奇遇なこともあるもんやな。3回とも姉さんのタクシーに乗るなんてな」
慎重に言葉を選びながら受け答えしていた片桐に、男は低い声で次の言葉を投げかけてきた。

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コメント(1)
  • あか

    2024/06/01/21:37

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