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不幸図書館さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

高架下の怪
長編 2024/06/04 08:48 980view

『3丁目の高架下で人が消えたらしい』

そんな噂を耳にしたのは昔働いていたコンビニでのことでした。その日も、深夜の客が来ない時間帯になると毎回オカルト話をしてくる面倒な先輩の、どこから仕入れてきたかわからないような話をうんうんと聞いていたのですが、それらとるにたらない漫言放語の中で、この高架下の話だけは私の興味を強く引いたのです。
理由の一つ目は単純にその高架下がこのコンビニの近くにある物だったから。二つ目はその高架下は私にとって思い出深いものだったから。そして三つ目は……
「へぇ、あの高架下で?どんな風に消えたんです?」
「目撃者によるといきなりパッと消えちゃったらしいよ。気づいたらいなくなってたみたい」
「はは、そりゃいいですね」
その当時、何もかも上手くいかずにっちもさっちもいかなくなっていた自分には、とても魅力的な話だったからです。もちろん本気で信じていたわけではありません。ただ、嫌なことがあった日の帰りにふらっと占いの館に立ち寄るような、テストの前日に目に入った神社にふらっとお参りに行くような、そんなノリでバイト終わりにふらっと立ち寄ってみよう。この時はそんな感覚だったのです。
***
アパートや住宅が並ぶいかにも郊外といった感じな人気のない夜道を歩くこと数分、その懐かしの場所に到着しました。橋を支える太く無機質なコンクリートの柱に抱き抱えられるように留まっている暗闇が、まるでこっちに来いと手招きをしているようで不気味に感じたのをよく覚えています。
高架下の入り口に立ち、大きく深呼吸をする。むせかえるような熱帯夜特有のジメジメとしたにおいが、鼻を通って脳を刺激し、12年前の記憶を呼び覚ました。
「(小4の頃だっけ?確か塾で返されたテストが酷い結果だったんだよな。それで家に帰るのが嫌で夜の街を徘徊して、最終的に辿り着いたのがこの高架下だったはず)」
我ながら実に可愛らしい。小学生のテストの点数なんて気にする必要のない瑣末なことだというのに。
「(あれ、そういえばその時ここで誰かと会ったような気がするな……どんな人だっけ?すごく優しくしてくれた気がするんだけど……)」
よく思い出せない。そもそもそんなに優しい人だったかな。こちらに無関心だった気もする。いや、すごくイライラしていたっけ?話をしたようなしてないような?まぁ昔のことだし思い出せないのも無理はないか。忘れるということはたいしたことではないのだろう。
その時の私は、そうやって自分で自分を納得させ、拭いきれない違和感を押し○しました。

気付くと、向こう側から人が歩いてくるのが見えました。
顔は影になっていて見えませんでしたが、Tシャツ短パンの小さな男の子でした。
「(なんでこんな深夜に子供が……?)」
迷子か、それともあれが先輩の言っていた怪異なのだろうか?とても人1人消してくれるようには見えないが……
その子供はトボトボと、小さな歩幅で徐々にこちらに近づいてきました。そしてお互いの顔が認識できるほどの間合いに入ってきた時、私は戦慄しました。

それは私でした

その顔は幼き日の私の顔そのものだったのです。
「えっ………は………………?」
なぜ目の前に自分がいるのだろう。ドッペルゲンガー?いや、子供の頃のドッペルゲンガーが現れるなんて聞いた事がない。わからない。わからないのは怖い。と言うかなんだろうこの違和感、何か重大なことを忘れている気がする。
『………』
「はっ!?」
気づいたらそれは目の前に来てこちらを見上げていました。子供らしい純粋無垢な瞳。まだ濁りを知らないその眼は本来愛でるべき対象なはずであるのに、私にとってはとても不気味なものに感じられました。
『………』
しかし、それはただこちらをじっと見つめているだけで危害を加えるような素振りは見せませんでした。
「――――や、やぁ、こんな夜にどうしたの?」
少し落ち着いた私はその子に話しかけてみました。そうだ。この世には自分と同じ顔の人間が3人はいると聞く。子供の頃の自分にそっくりな子がいてもおかしくないだろう。そう自分に言い聞かせました。
『………』
相変わらず子供は黙ってこちらを見上げているだけ。私がこの子を怖がっているように、この子も私のことが怖いのかもしれない。
そう思い少しでも安心させようと、ゆっくりと屈み、その子と目線を合わせました。
「えっと、お母さんとお父さんはどうしたのかな?」
『………』
「もしかして1人でここまで来たの?』
『……』
肯定とも否定とも取れない沈黙。ただなんとなく、この子は1人でここまで来たのだと私は感じました。
「嫌なことでもあったの?」

『……』
この時の私はこの子に、この不思議な子供に過去の自分を重ねていました。この子も何かあったんだろう。大人からは理解してもらえない、子供特有の悩みがきっとあるんだ。
「お兄さんもね、昔ここに1人で夜来たことがあるんだよ。あの時は塾のテストが………………」
あ、あれ?本当にそうだっけ?本当にテストの結果を見せたくなくて家に帰らなかったんだっけ?
『………』
いや違う。お母さんの花瓶を割ったのを怒られて家を飛び出したんだ。ん?お父さんのギターを壊したんだっけ?
『………』
ああ、思い出した!あの日田中くんにいじめられてできた傷を親に見せたくなくて家に帰らなかったんだ!――――あれ、俺が田中くんをいじめてたんだっけ……
『………』
思い出せない!思い出せない!どうして俺はこの高架下に来たんだ!
『………』
「なんだよ……」
『………』
思い出せないことに対する混乱と、ちっとも表情が変わらないそれに対する恐怖で私は気が狂いそうでした。
「黙ってないでなんとか言えよ!」
私はそれの胸ぐらを激しく掴み、持ち上げました。
『………』
それは苦しむ様子を一切見せず、相変わらず濁りのない眼でこちらを見つめていました。その眼が怒りで我を失っていた私にはとても冷ややかなものに見えて、さらに怒りが込み上げてきました。
「――――なんだよお前!なんなんだよ!一緒の顔しやがって!気持ち○いんだよ!」
『―――ご…いめ……』
突如今まで口を閉ざしていたそれが何かを口にしました。聞いてはいけない。これを聞いたら何か悪いことが起きる気がする。頭ではわかっていたのに、何か大きな力に突き動かされるように、私の口は動いていました。
「………今なんて……………?」

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