ネズミ
投稿者:綿貫 一 (29)
私は、ゴクリと息を飲みました。
これが、祖母がネズミに対して異常な程執着する理由だったのです。
「……さっきも言ったけどね、アイツらは何でも齧る。
鋭い歯でね。ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、って。
家の壁だって、電気のコードだって、それに、人だってね。
かわいそうに、その赤ん坊は、ネズミに噛じられた怪我と、傷口から入った菌がもとで、そのあとすぐに亡くなってしまった。
お姉さんは、すっかりおかしくなって、しばらくして実家に帰されたそうだよ。
後になって、親や親戚から聞いた話だけどね――」
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その後、家のあちこちに毒団子が置かれました。
天井裏に、祖母の部屋。
玄関、風呂場、台所。
トイレ、縁の下、庭の植え込みの陰など。
それこそ至る所に、祖母はその白い団子を置いたのです。
私や両親は、少々うっとおしくも感じましたが、それで祖母の気が済むならと、何も言いませんでした。
実際、その後、祖母は、
「天井裏からネズミの足音が聞こえなくなったよ。
みつかちゃんと一緒に作った、団子のおかげだね」
と、笑みさえ浮かべるようになったのです。
幻のネズミに怯える日々から開放され、ようやく、家の中に平和が戻ってきました。
ところが――。
※
※
「ええと……今日は佐藤くんはお休みです」
朝のホームルームで、クラス担任の若い女の先生が言いました。
教室が少しざわめきました。
佐藤くんは、いつも元気いっぱいなサッカー部の男子で、欠席することなんか、まずなかったからです。
「先生ー、アイツ風邪ですか?」
佐藤くんと仲の良いクラスの男子が尋ねました。
先生は、その問いになぜか表情を強張らせました。
そして、
綿貫です。
それでは、こんな噺を。
ネズミって都会でしか見たことないからそこだけ引っかかる
ど田舎だけどネズミめちゃくちゃいました
遥か昔、たまに、天井裏にネズミがいたことがあります。