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ヒトコワ

綿貫 一さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ケータイ忘れただけなのに
長編 2023/12/18 09:00 6,572view
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結局、目的の駅に着いたのは、予定時間を30分ほど過ぎた頃だった。

いっこうに前に進まない電車の中で、気持ちばかりがジリジリと焦って、何度も彼に連絡を取りたくなった。その度に『そうだ、ケータイ忘れたんだった』と思い出して、の繰り返し。

ようやく駅に着いた時には、私はすっかりヘトヘトになっていた。
ターミナルであるその駅は、休日も混み合っていた。
私はヨロヨロと改札を出て、待ち合わせ場所の、駅前ロータリーにある時計台を目指す。
と、まさにその時計台の足元に、人だかりができていた。

なんだろう? 有名人でも来ているのかな? 
テレビの取材? 凄腕の路上パフォーマーとか?

いやしかし、それにしては人々の表情が暗い。
人垣の隙間から、ちらりと覗いた警察官の姿。

遠くから聞こえてくる、救急車のサイレン音。
心がざわめく。

不安が、墨汁のように胸の中を黒く染めていく。
確かめたくないが、確かめずにはいられない。

私は、おそるおそる人だかりに近付くと、適当な背中に声をかけた。

「あの……何があったんですか?」

振り返った年配の女性が、ひきつった顔で応える。

「事故ですって。車が、すごいスピードで歩道に突っ込んできて……。
その場にいた何人かが巻き込まれたみたい。ほら、車もグシャグシャで――」

彼女の顔の奥、歩道に乗り上げ、時計台に衝突したまま止まっている、白い軽自動車が見えた。

車の前方はひしゃげ、フロントガラスは割れて、破片がアスファルトに散らばっている。
路上に残された、真新しい血だまり。
地面に寝そべったまま、虚ろな目で空を見上げている、人気アニメのキャラクターのぬいぐるみ。
そして、見覚えのある黒ぶち眼鏡――。

まさか。 
まさかまさかまさか。

不意に、小学生の頃、全校集会で立ったまま校長先生の長話を聞いていて、貧血を起こした時の感覚がよみがえった。
視界がキラキラまぶしくなって、眩暈と吐き気で立っていられなくなる。

とにかく彼に連絡を――、
ああそうだ。ケータイ、ないんだった――。

2/5
コメント(3)
  • このオマージュを理解できる人はオッサンだと思う(笑)
    はい、自分もですよ

    2023/12/18/19:36
  • 2006年くらいにアニメ見てた人には懐かしい名前

    2024/01/05/01:31
  • ((( ;゚Д゚)))なるほど

    2024/01/20/16:48

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