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不思議体験

vichuさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

蜻蛉の神社
短編 2021/03/11 14:07 2,424view

夏休みに島根県を旅行していた時の事。

山道を自動車で2時間は走っていた。すれ違う自動車もまばらだったこともあり、開放的になり制限速度をやや超過しながらご機嫌に原風景とも言える田舎道を楽しんでいた。
しばらくすると、神社が見えた。先程から随分と飛ばしていたので現在地と目的地を確認するため、停車する事にした。
駐車場らしきものも無かったので、神社の面する道に路上停車させた。

地図を見て確認を終え、ふっと神社を眺める。すると境内へ続く階段に、沢山の羽の黒い蜻蛉が飛び交っていた。参道の両脇は雑木林になっており、高く伸びた樹木によって暑い日差しが遮られ、薄暗い。そこを飛び交う数多の黒い蜻蛉。その調和が妙に艶やかで、妙に幻想的に見えた。

これも何かの縁だと思い、軽く参拝する事にした。
蜻蛉を踏まぬよう注意を払いながら、苔むした階段を登る。見えた鳥居は石で出来ており、「諏訪神社」とある。その先の境内にも蜻蛉が舞っていた。肝心の社はと言うと、これまた随分と古めかしい様子だった。いやむしろ粗末と言った方が適切かもしれない。外観は農具を収納する小屋を少し立派にしたような見た目で、しめ縄の類でようやく社だと認識するといった始末だ。また汚れや朽ち果てた箇所も所々に見受けられた。管理も十分に行き届いてないのだろうか。立地が立地なので、致し方ないのだろうと思った。
社は戸が閉まっており、普通はあるはずの賽銭箱が無かった。辺りを見回しても、それらしきものはない。だがそのすりガラスの戸を開けてみると、小さな奉納と記された箱があった。
五円玉が無かったので、五十円玉を納める。ご利益も十倍だといいんだけどなと心の中で軽口を叩き、一礼して車へと戻った。

車へと戻る途中、まだ蜻蛉が飛んでいたので、その風景をパッドにて写真に収める事にした。3.4枚は撮ったと思う。

数時間後、目的地の民宿へと到着し、風呂に入り部屋でのんびりしていた。すると昼間の出来事を思い出し、写真を確認しようとした。なんとも雰囲気のある写真が撮れた事だろう。
そう思ってパッドを起動する。……起動しない。おかしいなと思い、カチカチと電源ボタンを押すと、ようやく起動した。なんてことない、電源が落ちていただけだった。
…….待てよ。あの後ずっと運転していたのに、なんで電源が落ちていたんだ?もちろん私は落としていない。充電も半分以上ある。
不思議に思いながら、写真フォルダを確認する。すると、昼間収めていたはずの写真が一枚も無いのだ。
混乱しながら、フォルダをスクロールする。神社より前の写真はある。しかし肝心の神社のそれがない。
私は寒気を覚えた。

あの古い神社は、記録してはいけないものだったのだろうか?
今も、山道にひっそりと佇んでいるのかもしれない。

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コメント(2)
  • 最初の漢字が読めません。

    2021/03/11/14:40
  • トンボ(蜻蛉)

    2021/03/11/15:39

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