蜘蛛の巣

「え？お前、そういうのわかんの？」とＡが聞く。
俺もＢの返答が気になって顔を向ける。

Ｂは「んー、霊感あるのか分からんけど、見えたり見えなかったりする。でも、お前の部屋見たときからずっと首吊ってる女は見えてたよ。ヤベえ所に住んでんなと思った」と苦笑しながら煙草を一服。

「いや、最初に言えよ」

俺がそう言うと、Ｂは「いやいやいや。女がめっちゃこっち見てたし。喋ったら呪われそうじゃん」と心底嫌そうに答える。
で、続けて「そういやお前、暖簾みたいに女の髪の毛に平気で顔突っ込んでたな」と引き気味に言う。

その瞬間、これまで部屋に入るたびに蜘蛛の巣に引っ掛かった感触を覚えていた事を思い出し、その正体がＢが言う首を吊った女の髪の毛が触れていたんだと理解して鳥肌立った。

「お前、マジで今言うなよ。お前ら帰ったら俺一人じゃん」

縋るように二人を見る俺。
しかし、空気を読まずにタクシーが到着した。
Ａは「…ご愁傷様」と苦笑し、Ｂは「何かごめん」と片手を上げてタクシーに乗った。

俺は即行で簡単な身支度を整えて漫画喫茶に泊まった。
そのあとはすぐに新しい物件を探して、引っ越すまでＡかＢの家や漫画喫茶を梯子して過ごし、引っ越しが決まったらＡとＢに荷運びを手伝ってもらって引っ越した。

最近中目黒に行く用事があってふらっとそのアパートを見に行ったんだが、まだ健在だった。
俺が住んでた部屋に入居者か入ってるのかは分からなかったが、コンビニのビニール傘が玄関の外に立て掛けられてたから、たぶん誰か住んでるんだろう。

首を吊った女と二人暮らしだと知ったらどういう反応をするのかは気になるが、まあ、俺が知った事ではない。