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妖怪・風習・伝奇

すだれさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

山中の遊戯
長編 2023/02/02 20:05 4,382view
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社を神様を祀るもの、鳥居を神様の領域の入口と認識していた祖父は社に手を合わせ、鳥居に礼をして端に寄りながら潜った。
勝手知ったる近所の山と違って初めて入る山、帰り道がわからなくなっては堪らんと、祖父は人が踏みしめて作った道から外れないように進んでいった。

ただでさえクラスの者たちが未踏の山、頂上へ登り詰めただけでも功績だ。今日は易しめにして、本格的な探索は日を改めればいい。
祖父はそんなことを思いながら進んでいた。

「実際頂上は登れたみたい。地元じゃそうそう見られない絶景だったって」
「学友たちにも自慢できただろうな」
「もうヒーローだったって」

当初の目的を達成し、絶景も満喫して満悦の祖父はそのまま帰ろうと踵を返した。
…が、

「帰り道がわからなくなったんだって」

「道は一本道だったはずなのに」
「その、踏んで作った道が消えてたんだって」

少年の祖父は息を飲んだ。当時の祖父には現代の子が持たされるような連絡ツールは無い。夜に帰って来ない祖父に家の者が気づいても隣町の山まで探しに来るかはわからない。『遭難』の二文字が頭をチラついて、思考を振り払うように振った頭に後ろから何かがぶつかった。

痛ッ!なんじゃこれは、木の実か?

何ごとかと頭を擦りながら辺りを見渡し、足元の固い木の実を拾う。
拾った瞬間、右の垣根がガサリと大きな音を立て、祖父の心臓は同じほど跳ねた。

「あの時、おじいちゃんは確かに聞いたんだって。垣根の方角から、クスクス笑う子どもの声がしたのを」

お前か、木の実をぶつけたのは!

そう言いながら垣根を分けた先には何も居らず。また後ろから木の実と笑い声。
姿は見えず、クスクスと笑う声だけが辺りに木霊した。

「近所の子どもではなさそうだな…」
「おじいちゃんもそう思ったって。『山に住んでる何かの仕業だ』って」

帰り道を隠したのも貴様らか!

祖父の言葉に返ってくる笑い声はからかうように大きく響いていた。大抵の子どもならそろそろ怯えそうなものだったが、祖父は違った。

貴様ら、ヌシに告げ口されたいか!

そう祖父が怒鳴ると、笑い声はピタリと止んだ。

オレは貴様らのヌシにちゃあんと詫び入れて、鳥居くぐって山に入ったんじゃ。頂上まで行った。ヌシはオレが山に入るのを許してるんやぞ。

ザワ、と周囲の木の葉が鳴る。
狼狽えているようにも聞こえたので祖父はそのまま続けた。

それなのに貴様らは木の実は投げるわゲラゲラ笑うわ…道まで隠してなぁ?下っ端どもはこぉんなイタズラするんじゃなぁ?ヌシは知っとるんか?知らんのじゃろ?教えてやろうか?貴様らはヌシに怒られるんかなぁ?貴様らはヌシに、何を投げつけられるんかなぁ?

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