岩手の寺のお堂の話

私は岩手県出身です。多くの人にとってすごく地味なイメージのある県だと思います。
そのとても地味な岩手県のある市のある町にあるお寺のお堂がとても不思議なのです。

少なくとも私が子どものころから現在にいたるまで、そのお堂はしめ縄で封印されています。お堂の周りをこれでもかという大量のしめ縄で封印されているのです。

もちろん、それだけであれば「なにかあるのかな？」と思うだけだと思うのですが、このお堂の近くに行くと音が聞こえなくなるのです。
風の音も、草の音も、虫の声も、聞こえなくなるのです。山の中なのに。そして、それに気がつくと、ゾッとしてしまい声すら出なくなります。

そうなると無音。無音です。完全な無音はとにかく怖いのです。

すぐにそこから逃げ出したくなるのですが、足がなかなか動かなくなります。
必死で必死で足を動かします。足音は聞こえません。
息遣いが荒くなっていることを感じます。息の音も聞こえません。
それでも、体を動かしてお堂から離れます。

すると、ある地点で音が聞こえるようになります。足音も息遣いも、風の音も蘇るのです。
このお堂がどこにあるのかは教えませんが、私はここで何度も同じ体験をしていますので、辿り着ければ無音を体験できるはずです。