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不思議体験

やうくいさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

シシムラ様
短編 2021/02/19 19:45 17,199view
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これは、ある村で私が体験した、奇妙な話である。
さて、我が家では毎年、お盆を丸々祖父の家で過ごすことになっていた。
祖父が住んでいる村には、毎年お盆の初日になると、村はずれの神社の境内にある大きな岩の上に、担当になった村人が生肉の塊を供えるという奇妙な風習があった。オカルトなことに興味深々だった中学生の頃に、一度祖父に何のために供えているのか尋ねたところ「シシムラ様を村に来させないためらしいが、詳しいことは知らん」とのことだった。シシという言葉から、イノシシのような山神でもいるのかな、それとも肉の塊だから、獅子の方かな、などと妄想を膨らませ、それで満足したのを覚えている。

高校2年の夏、例の肉を供える役目が祖父に回ってきた。村長から渡されたビニール袋2つ分の生肉を供えなければならないようで、境内までの石階段のことも考えると、70歳を超えた祖父にはあまりに重労働だという話になり、一番若く体力のある私が行くことになった。

そしてお盆の初日、することもないため昼過ぎまでダラダラしていた私は、重い腰を上げ、ようやく神社へ向かうことにした。
石階段もあるため、徒歩で向かったのだが、日差しが強く、思った以上に肉が重たくて、私はすぐにバテてしまった。
すぐ先に屋根とベンチ付きのバス停があったため、私はそこでひと休みすることにした。
時刻表を見ると、毎日朝に一本しかバスは無いようだ。それなら来る人もいないだろうと、ベンチに横になり、足の下と頭の下に肉の袋を置いてみると、ひんやりとして意外と気持ちがいい。私はそのまま眠ってしまった。

目覚めると、日が落ちかけ、空が紫になっている。夜になると、街灯すら無いこの道では、右も左も分からなくなってしまうだろう。慌てた私は、枕にしていた肉を引っ掴み、神社へ全力で走っていった。人間、焦ると思いもよらぬ力が出るようで、バス停で飛び起きてから石階段を駆け上がり、大岩に辿り着くまで一度も止まらなかった。ビニール袋を開けながら岩を見ると、なんとも気持ちが悪い。毎年毎年生肉を置いているのだから、当然と言えば当然なのだが、うっすらと悪臭が漂い、黒くべたついた何かがびっしりとこびりついている。こんな所はさっさと立ち去りたい私は、岩に生肉を供えると、すぐにその場を立ち去った。

帰り道も全力疾走し、幸い真っ暗になるまでには家に辿り着くことができたため、その日は何事もなく終わった。

次の日の10時頃、私は誰かが言い争うような声で目が覚めた。盗み聞きしてみると、シシムラ様に供えるはずの生肉が、バス停に置いてあったと聞いた村長が、怒鳴り込んできたらしい。それを聞いた私は、情けないやら恐ろしいやらでガタガタ震えてしまった。昨日のバス停で飛び起きた時、枕にしていた生肉しか持っていかなかった事を思い出したのだ。村の風習を蔑ろにしてしまったのだから、祖父が村八分になってしまうかもしれない、などと心配していると、祖父が部屋に怒鳴り込んできた。「お前!シシムラ様に一つしか供えんかったんか!」と、叫びながら、今まで見たこともないような鬼の形相を浮かべている。ただ謝るしかない私は、祖父に玄関まで引きずられていった。そこには、祖父よりも怒った村長がいた。村長にしばらく罵られたあと、私は解放され、祖父と村長は集会所へ緊急集会をしに行った。

夜7時ごろ、戻ってきた祖父はかなり憔悴しているようだった。改めて謝っても「もう遅い…」としか言ってくれない。祖母と両親が状況を尋ねると、祖父は渋々話し始めた。

「集会所にきた奴らが言うには、飼われてた犬が全部泡吹いて倒れてたそうだ。野良猫やら鳥は一匹たりともおらんくなってた。」

祖父はこれだけ言うと、私と両親に「今すぐ帰れ。」と告げると、自分の部屋に篭ってしまった。ずっと不安そうな表情だった祖母も何かを察したのか、私たちを急かして帰る準備をさせ始めた。追い立てられるように車に向かった私は、外が異常なほどに静かなことに気がついた。いつもならカエルがうるさいほどに鳴いているのに、虫の声ひとつ聞こえない。しかし、その時今まで聞いたこともない音が遠くから聞こえてきた。

ずるずる、ぼたぼた、ずるずる、ぼたぼた

何かが引きずられるような音と、何か液体が落ちる音がする。

ずるずる、ぼたぼた、ずるずる、ぼたぼた

辺りを生臭い臭いが漂いはじめた。

ずるずる、ぼたぼた、ずるずる、ぼたぼた

遠くの方で、赤黒い塊が蠢いている。

その時、両親が車から呼びかけるのが聞こえ、私は我に帰った。
幸い、あの何かがいる方とは逆の方の道で帰ることができるらしい。
車に乗り込んだ私は、なぜかすぐに眠り込んでしまった。

気づくと家に着いており、両親もそれっきりあの村について何も話してくれなかった。あれ以来、お盆に祖父の家に行くこともなくなり、祖父や祖母と会うこともない。
何度か両親に尋ねても「お前にはもう関係ない」としか答えてくれない。

シシムラ様とはなんなのか。あの村はどうなってしまったのか。私は未だに知らないし、恐らく知らない方がいいのだろう。
しかし、もしシシムラ様について何か知っている人がいたら教えて欲しくて、この話を書いた。特にオチもないが、これで終わらせてもらう。もし情報があれば教えてください。

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コメント(11)
  • コテコテ過ぎて逆に面白かったw

    2021/02/19/21:02
  • 古き良き2ch怪談のようで好きよ。怖いに投票しました😉

    2021/02/19/21:22
  • すごく好きです

    2021/02/20/02:00
  • オチは確かに無かったけど、私にとってとても好きなタイプの話です。
    やっぱり、田舎で不思議な習慣があって、怪しげな神さまがいるという筋書きの話はとても興味深いですね

    2021/02/20/02:14
  • 己が人の命を絶ち、そのししむらを食ひなぞする者はかくぞある
    を思い出した

    2021/02/20/14:18
  • わたし、シンムラです。

    2021/02/23/09:35
  • 村に迷惑しかかけてないのすき

    2021/03/06/01:30
  • シシムラー!
    うしろうしろー!!

    2021/03/06/20:33
  • 何の生肉備えてるんだろう?

    2021/03/08/12:24
  • 色々つっこみどころあるけど面白かったー!
    よそ者がお肉お供えしてもいいんだ

    2023/01/22/22:05
  • ぶっちゃけ上の人の言葉通りだと思う。
    そんな大事な行事を若いとはいえ、よく知りもしない子供にやらせるなよ。
    この手の若い子は風習とか軽んじるもんなんだからさ。

    2023/10/05/22:18

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