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妖怪・風習・伝奇

やうくいさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

まなぐ様
短編 2023/06/27 21:01 6,602view
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私は中学校を卒業するまでの間、祖父母の元で暮らしていました。
祖父母の家はかなり田舎の村にあり、川遊びや虫取りばかりして過ごしたものです。
村の人たちは皆親切で、道で会ったら野菜やお菓子をくれ、家にお邪魔してケーキをご馳走になる事もありました。
友達とは放課後から夕暮れまで、村中を駆け回って遊んでいました。
良い思い出が沢山あるのですが、私はあの村には二度と戻らないつもりです。

村を出てから気がついた事も多いのですが、あの村には変わった風習が沢山ありました。
地蔵の清掃当番、収穫した野菜の一部を村の一角に積んで放置する、坂では後ろ向きに登るなど、村を出てからは見た事がないです。
それらは皆やっていましたし、特に何も思わずにやっていたのですが、一つだけ、私がどうしても苦手な風習がありました。
それは、まなぐ様が通る時は上を見ない、というものでした。

数人以上の人が集まっている時は騒がしくなるものです。

宴会の席などは特にそうですよね。
しかし、なぜか皆が突然言葉に詰まり、場が静まり返る事があります。
物音を立てる事が憚られるほどの静けさが急に訪れる。そういう時のことを村の人たちは、まなぐ様が通ると呼んでいました。
村を出てからはあまり見た事がないのですが、村に住んでいる時はしばしば起こりました。上を見てはいけない決まりでしたので、場が静まると皆は目を合わせて、しばらく下を向いてじっとしている。
緊張感と静けさがなんとも居心地悪く、私はこの風習が苦手でした。

さて、あれは中学3年生の冬休みのことです。私は両親が住む都会の高校へ進学する事が決まっていました。両親に連れられて何度か都会へと足を運び、新生活への期待と興奮で満たされていました。
村から離れる寂しさもあったのですが、都会を見てからというもの、私はど田舎の村に少し嫌気がさしており、今まで律儀に守っていた風習も時々無視していました。
あの頃に坂を、前を見て登った時の背徳感と爽快感は今でも忘れられません。
そんな調子づいた私でしたので、今まで苦手だったまなぐ様の風習も破る事になります。
村での通夜振る舞いでの事でした。

通夜振る舞いでお酒も出てきて、村の人たちは口々に故人との思い出を語っていました。
けっこう高齢の方でしたのでそこまで暗い雰囲気でなく、笑い声も多かったです。
そんな時、突然場が静まり返りました。
村の人たちはいつも通り目配せをしあって下を向き、じっと押し黙っています。
今こそこの風習を破ってやろう。
私はぱっと上を向き、天井を見ました。

天井にはびっしりと目がありました。
全ての目が私を見ています。
ごーごーと耳鳴りがして、冷や汗をかきました。目玉ひとつ動かせません。
お腹の中で目玉を動かしているような感覚がして、私は意識を失いました。

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コメント(3)
  • 村人にのみ反応するまなぐ様、まなこ、がなまった言葉なのでしょうか。

    2023/06/28/13:02
  • こういうの、大好きです!(^^

    2023/06/30/09:31
  • 方言で目のことをまなぐといいますね

    2023/07/18/10:47

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