自業自得

とうとう限界が訪れたのか、水泳の授業中、プールサイドの隅でKちゃんへと馬乗りになり、暴力を振るっていたTちゃんの姿を目の当たりにしました。
みんなで必死に引き剥がそうとしますが、想像以上の力なのか先生ですら揉みくちゃになって苦戦する中、

『足掴まれたやんか！おまえのせいや！！』『どうしてくれんねん！どうしてくれんねん！！』『許さへんからな』と喚きながら地団駄を踏み続け、泣き叫ぶTちゃん。
みんな騒然とし、もう自由時間どころではありません。

見学していた私は少し離れたところからその光景を眺めていたのですが、水泳帽を脱がされ、振り乱した濡れ髪の隙間から鼻血を垂れ流し、楽しそうに笑っているKちゃんの表情に、得体の知れない恐怖を覚えました。

その日を境に、Tちゃんは学校へ登校しなくなりました。
『黒い影にずっと見られている』恐怖を先生や親に打ち明けたのか、全校集会や個人面談等が立て続けに予定され、暫く落ち着かない日々が続いた記憶があります。しかし、黒い影の話や噂は、あっという間に忘れ去られました。だってそんなものは最初からどこにも存在していませんでしたし、終業式と夏休みを終えて新学期が始まると、Tちゃんの席ももう、どこにもありませんでした。

プールサイドでの件の後、保健室で手当てを受けていたKちゃんへお見舞いに行けば、『Tさんはね、自業自得なんだよ』と、何かをやり遂げたようなすっきりとした笑顔で私に語ってくれました。“人に与えた苦しみは、いつか自分自身に返ってくるもの”なんだよと。

先日、私の娘が学校から帰ってくるなりぐずって泣き出したので何があったのか聞いてみたところ、『○○ちゃんの背中から黒い影が生えてる』と、友達に言われたそうです。もちろん、私にはそんなもの見えていませんし、娘にも見えていません。その子にしか言われなかったというので『気のせいだよ』と慰めましたが、娘はそれから、自室の押し入れや襖の暗い隙間を極端に恐がるようになりました。

言葉の呪いなのかはわかりませんが、もし今もTちゃんが何処かで生きているのだとしたら、Kちゃん達や私にも、『自業自得』が巡ってきているのかもしれません。