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心霊

どっかの誰かさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

センサー
長編 2021/08/07 22:24 2,070view

 私の夫は、幽霊を信じていません。
私自身も霊感といったものには縁がないためどちらかといえば信じていなかったのですが、“目には見えない、感じ取れないもの”というのは、やはり存在しているのかもしれません。

 夫が通販サイトで『センサーライト』を購入したのは、今月はじめの事でした。タイムセールで安くなっていたし、新居の一軒家だから防犯グッズはあった方がいいとの弁で、玄関前と庭先用に、二つ届きました。
 私は機械に疎いせいかそれほど興味をもたなかったのですが、家具などの電化製品を弄るのが好きな夫はワクワクしながらセンサーを設置し、その効果に満足しているようでした。

 暗くなってから光るように設定されているセンサーは、夕方、洗濯物を取り込んでいる際にも私の動きを検知し、パッと明るく周囲を照らします。時々、室内飼いをしている猫へと会いに近所の野良猫が庭へやってくるのですが、人間以外の動きは感知しないよう設定されているセンサーの細やかな性能に、私も疎いながら感心していました。

 しかし、稼働してから三日ほど経った頃、突如としてセンサーが反応しなくなりました。庭先に設置していたものが、まったく光らなくなったのです。
 夫に相談したところ、買い置きしていた電池が劣化していたのだろうとのことで、朝、仕事へ行く前に夫が取り外し、新しいのを買って交換するまで、そのセンサーはリビングに置いておくことにしました。

 ……私は、過去の出来事により暗い空間が極度に苦手で、就寝するときもオレンジ色の電気を点けていないと眠れません。どこにいてもそれは同じで、入浴する際にも、リビングや脱衣場の電気は点けたままの状態じゃないと、不安になって落ち着かないのです。

 その日も、仕事で帰りの遅い夫を待って先に入浴していたのですが、洗い終えた身体を拭こうと立ち上がった際、違和感に気付きました。浴室のドアは型ガラスになっており、向こうの様子がぼんやりとわかるようになっているのですが、いつものように点けたはずの脱衣場の電気が消え、真っ暗になっていたのです。

 夫も私の“怖がり”を知っているため、私の知らぬ間に電気を消すようなことはしません。けれど、たまたま消してしまったのかなとあまり気に留めずドアを開くと、私は思わず竦んでしまいました。

 脱衣場やリビングといったすべての電気が消えており、部屋中が真っ暗になっていたのです。かろうじて光を放っているものは、空気清浄機の緑のランプと、庭へと射し込む道路の弱々しい街灯だけ。停電かと思いましたが、それでは浴室や家電の説明がつきません。

 理解の追い付かない状況から不安へと落ち込み、強盗だったらどうしようと慌ててタオルで身体を覆い、何か身を守るものはないかと脱衣場を見回していると、リビングで何不自由なく歩き回っている飼い猫の姿が見えました。
 私と夫以外への警戒心がとても強く、臆病な猫です。
きっと不審者なんていないのだろうと勝手に安堵し、私はホッと息をついて猫の名前を呼ぼうと口を開きました。

 すると突然、玄関前のセンサーが反応し、その光が庭先へと漏れていることに気付きました。夫が帰宅したのかとも思いましたが、玄関から物音は聞こえません。センサーもいつの間にか消え、インターホンも鳴らないので、荷物の配達でもないようです。

 不安を打ち消そうとか細い声で猫の名前を呼びましたが、いつもなら甘えて鳴きながら寄ってくるはずの猫が、何故かリビングに座り込んで動こうとしません。毛繕いを始める様子でもなく、ただ天井を見上げたまま尻尾を揺らしています。

 もう一度呼ぼうと声を出した瞬間、部屋の空気が、冷たく変わったような感覚がありました。

 電池を抜いてテーブル上に置かれていたはずのセンサーが、反応して光り出したのです。勿論、そこには誰も居ないし何もありません。一瞬にして天井を明るく照らす光に呆気をとられていると、今度は空気清浄機のランプが赤く輝き、強い稼働音を鳴らし始めました。

 私は再び恐怖をおぼえ、何も出来ずただ立ち尽くしてしまいました。センサーは一度反応すると、20秒ほどで消える設定になっています。しかし、一度消えてもまたすぐに、センサーは天井を照らし続けるのです。たった20秒なのに、やけに長くチカチカと点いては消え、猫はとり憑かれたように一点を見つめたまま、固まっています。

 上に向けて置かれているはずのセンサーが“なにかを感知している”のだと確信しても、私に出来ることなんて、何一つありませんでした。ただその光景を眺め、どこかへと去ってくれるのを待つだけ。

 緑から滅多に変わらない清浄機が切り替わったことにも、関係しているのかもしれません。今思い出しても本当に異様で、不気味な空間でした。

 私の限界は、すぐに訪れました。すっかり湯冷めした身体が震えだした頃、浴室の灯りが、まるで故障でもしたかのように明滅したのです。“目には見えない、得体の知れない何かが、玄関からリビングへ、リビングから私の方へと移動してきている”のだと、そう錯覚しました。

 身なりになんて構っていられず、私はタオル一枚をひっ掴んだ姿のまま、半べそをかきながら浴室を飛び出しました。勢いに任せリビングへと向かうも、すでにセンサーは消え、清浄機の赤いランプだけがぼんやりと私と猫を照らしています。
 暗い空間に耐えられなくなっていた私はとにかく電気の紐を引っ張ったり、スイッチを手当たり次第に点けようとしましたが、まったく反応がありません。指先が痙攣し、うまく押せていなかったのかもしれませんが、叫び声もあげられない状態で、もうどうしようもありませんでした。

 今まで固まっていたはずの猫が、電気の消えた浴室の方へと、威嚇し始めました。尻尾が膨らみ、敵意を剥き出しにしている姿に触発されたのか、私は情けなくも腰を抜かしてへたり込んでしまいました。

 怖い。どうしよう。何を、どうすればいいの。真っ暗な黒の中から赤く照らされた何かが姿を現してしまえば、私はもう、殺されてしまうのかもしれない。

 ……人生で味わったことのない恐怖を体験した私が覚えているのは、ここまででした。

 帰宅した夫曰く、私は三角座りで俯いた姿勢のまま失禁し、気を失っていたそうです。“何か”を見た前後の記憶はまったく無く、猫も何事もなかったかのようにけろっとしていました。ありのままに起こった出来事を覚えているかぎり話しても、夫は真面目に取り合ってくれず。半ばヒステリーじみた怒りをぶつけたところでようやく、センサーを破棄するという選択をしてくれました。

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コメント(2)
  • 猫が何もない所に集中するのは、よくあるみたいだね!
    雌猫かな?

    2021/08/08/01:10
  • 最後おかしくない?夫婦で電気点けずに過ごすって、、憑かれてるってこと?

    2021/08/08/04:16

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