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ヒトコワ

どっかの誰かさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

雨乞い君
短編 2021/02/27 20:10 6,007view
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連日報道されている山火事のニュースを観て、「早く雨でも降りゃいいのにな」って感じで思い出したことがある。

小学校の同級生に、『雨乞い君』って呼ばれた奴がいたんだ。もう何十年も前の事だから、フルネームがなんだったのかは忘れた。3年と4年で同じクラスになったその男の子とは、何度か喋ったり遊んだこともあって。

血色の悪い色白な肌をしていたその子は持病の影響もあり体が弱いらしく、運動も苦手で、秋頃になると毎年開催される『運動会』が大嫌いなんだと話していた。
運動神経が鈍くてどんくさかった俺もそんなにスポーツは好きじゃなくて、なにかと理由をつけては体育の授業を見学していた記憶がある。

苦手なものを共有してることで奇妙な連帯感も生まれて、見学のあいだはしょっちゅう行動を共にしていた。
すぐ隣に座って砂いじりを真似してみたり、その頃ちょうど流行っていたポケモンの新作ゲーム話を駄弁ったり。どのポケモンが好きだ、あの技が強いだのなんだのくっちゃべっていると、ある時、その子がおかしなことを言い出したんだ。

「ぼく、“あまごい”できるんだよ」

ポケモンの技の中に、“あまごい”っていうものがある。そのまま古い日本語としての意味通り、バトル中に雨を降らせてしまうという技なんだけど。それを、その子は自分も使えるんだと自信満々に話し出した。

さっきまでポケモンの話に夢中だった俺もさすがに「嘘つくなよ~」とからかって返すも、本当だよといって譲らない。「今年の運動会も、雨にするつもりなんだ。去年だって雨で短縮になったでしょ?」と言われて思い返せば確かにそうだったけど、そんなの、ただの偶然にきまってる。

面白半分で「じゃあ、雨乞いってどうやるの」と聞いてみても、“秘密”だと笑って方法を明かしてはくれず。
なんだよ、結局そんなの嘘じゃんと馬鹿馬鹿しくなって俺が不貞腐れると、

「でも○○とは“友達”だから、
特別にヒントだけ教えてあげる」

と言った直後に、その子の人差し指の長い爪が、砂の上を忙しなく這っていた一匹のデカい蟻の頭を切り落としたんだ。突然のことでどう反応したらいいのかわからず、蟻の死体を見つめたまま変な空気が流れて。切り離されても暫くバタバタと藻掻いていた頭の触覚も、そのうち止まっちゃって。

「ヒントはね、ギロチン」と無邪気に笑ってるその子に初めて気味の悪さを感じているとチャイムが鳴って、結局“雨乞い”についてはそれ以上のことを聞き出せなかった。

そんなやり取りがあってからその子とは少し距離を置くようになったんだけど、ある日、クラスの子がゲームボーイを持ち込んでバレた事案が起きて。怒った先生が急遽、ホームルーム中に抜き打ちで持ち物検査をするっていう騒ぎがあった。

各々、水色の道具箱やランドセルから中身を机の上に並べて潔白を証明していると、2つ隣の席に座っていたその子の前で、先生が腕を組んで立っていた。

なんで協力しないのだとか、正直に出しなさいとか、あからさまに疑いをかけてきている先生を前にしても、その子は俯いて何かぶつぶつ言ってるだけで動こうとしない。
堪らずに辛抱できなくなった先生が「立ちなさい!」とその子を席から離して乱暴に道具箱を机の上に引きずり出すと、同時に金切り声のような悲鳴が上がった。

みんな何事かと身を乗り出したり、走り寄ってきたり、もちろん俺も見に行ったんだけど。
周りの女子も共鳴して、教室中が一瞬でパニックになった。
「これは一体なんなの!!」と、ヒステリックにその子を問い詰める先生。

シワ寄った白い袋から取り出した透明のタッパーには、蛆の湧いたカエルや虫の死骸たちが、これでもかというくらい、ぎゅうぎゅうに詰められていた。
カマキリやゴキブリ、胴体だけの膨らんだ何か。パッと見ただけでも、変色した“それ”は赤茶色の汁や臓物が底に溜まって、とてもグロテスクだった。

もうひとつ出てきたジップロックのようなビニール袋の中には、刺身や弁当に使われている魚型の小さな醤油入れがいくつも転がっていて。

「なんで醤油なんか入ってるの!!」

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コメント(1)
  • 雨乞い君の理解者になってあげればよかったのに。

    2021/02/28/04:43

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