奇々怪々 お知らせ

心霊

withさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

ひょっこりさん
長編 2022/04/09 21:05 16,609view
4

「おい、スピード落としたほうが良くね?」

後部座席に居た友人が語り掛けて来るが、ひょっこりさんが俺の足を抑え込んでいるせいか、どうにも足に力が入らない。

「…おい、聞いてんのか?おい」

助手席の友人も少し声を荒げて来る。
しかし、俺自身魔のカーブの事は熟知しているので、必死にひょっこりさんの手を振り解こうと下半身を捻るがびくともしない。
まるで金縛りのように抵抗できない状況に、俺は焦り始める。

「なんか足が動かねえ!」

「はあ!?」

友人にひょっこりさんを引き剥がしてもらいたいがこの状況で説明しても頭がおかしなったとしか思われないし、たぶん逆効果だろう。
とりあえず足に力が入らない事を伝え、友人にブレーキを踏んでもらうか、アクセルを踏み込んだ足を引き離してもらうよう頼む。

「え、お前なんつー力だよ。マジで動かねえの?」

後部座席から俺の足を引っ張り上げ引き剥がそうとするも、本当にびくともしないことに当惑し始める友人たち。
助手席に居る友人がブレーキを踏もうと足を延ばすが、何故か何もない空間に遮られて届かない事にも驚愕していたが、俺視点では友人に足蹴にされるひょっこりさんという何とも言えないシュールな絵面が見えていて、こんな状況だというのに苦笑いした。

そうこうしているうちにカーブに差し掛かる。

ブレーキを踏み抜こうとアクセルから足を離そうとした時、ひょっこりさんが俺に向け微笑んだように見えると姿を消し、金縛りのような現象が解除されるなりすかさずブレーキを踏み込んだ。

車体が傾きタイヤが擦り減っていくのが手に取るようにわかる感覚と、遠心力の重圧と振動が腹の底に響いた。

ガードレールに接触した際、摩擦熱によって火花が飛び、ヘッドライトを破損させながらレールを沿い、次第に推進力を失った車体は大きく外輪のブレーキ痕を遺して停車することができた。

さすがに死ぬかと思った俺はハンドルに額を落とし、長い嘆息をもらす。
同乗する友人たちも抜け殻のように放心しているが、怪我がなさそうなのでシートベルトは偉大だと思った。

長時間座った後立ち上がると腰が伸びない例の現象を振り払い、俺は友人に続いて助手席側から外へ出る。

そして接触した運転席側、ガードレールの奥を覗き込み固唾をのんだ。

「間一髪だったな」

ガードレールの向こう側、山林のように崖となった傾斜を覗き込んだ友人が声を漏らす。

しかし、俺が固唾をのんで押し黙ったのはそれだけではない。
山林の一つ、木の陰からこっちを覗いているひょっこりさんがいるのだ。
距離にして数十メートルしか離れていないが、ひょっこりさんが満面の笑みを浮かべているのだけは視認できた。

そのほくそ笑んだ顔を見て、俺は漸く悟る。
ひょっこりさんは事故の危険を警告に来た恩人などではない。
俺を死へ導く死神だったのだ。

今目の前でああして笑っているように、事故を引き起こして俺の反応をうかがい嘲笑っているのだ。

3/4
コメント(4)
  • 普通に面白い

    2022/04/12/12:16
  • こわい

    2022/05/14/01:47
  • おもしろい

    2022/08/11/23:49
  • 後から今までの考えが一気にひっくり返されるところが恐怖
    なぜ最後冷静?

    2022/08/23/20:39

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。