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妖怪・風習・伝奇

夕暮怪雨さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

肉塊
短編 2022/03/05 01:01 2,228view
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高木さんは学生時代、山を超えて通学をしていた。学校が終わるとすぐに自宅へ帰った。毎日のように祖父母は高木さんに「山道で何かが転げてくる音が聞こえたら隠れろ。それに絶対に見つかっては駄目だ」と忠告されたからだ。それは陽が落ちると現れる。最初は「熊や野犬だろう」そう高木さんは思ったそうだ。陽が落ちた山道は特に危険だ。道に迷うこともある。そんな戒めを祖父母は彼に伝えたと勝手に解釈していた。

それが理由で遅くなると学校近くに住む、友人の家へ泊まることにしていた。友人家族も理由を知っているからか、快く受け入れてくれた。そんなある日、高木さんは他愛もないことで友人と喧嘩をした。
時間は既に夕刻、陽は落ちていった。本来なら友人宅へ泊まるが、喧嘩した手前、居心地も悪く、高木さんは帰ることにした。

山道を歩いていると、空が暗くなり、周囲も静かになってきた。段々と心細くなる。
「やはり泊まれば良かった..」そんな後悔が高木さんの頭を過った。すると山の上の方から物音が聞こえてきた。熊や野犬の足音かと思ったが、それも違う。「ゴロゴロ..」と何かが転がる音だ。高木さんはそれを聞き、祖父母の言葉を思い出した。

転がる音と共に、肉が腐り落ちたような臭いが辺りを包んだ。音は次第に近づいてくる。高木さんは恐ろしくなり、木陰に隠れた。それは何かを探すよう、右往左往しながら、ゆっくり山道を下ってきた。目に入ったのは、高木さんの身長をゆうに超える大きな肉塊だった。血のようなものを地面に滴らせ、ゆっくり転がっていた。すると近くにいた小動物を巻き込んだ。小動物は苦しみ叫び、その肉塊の一部になった。高木さんは恐怖で叫びそうになったが、堪えた。肉塊は高木さんの気配を感じ、明らかに探していたからだ。じっと隠れ続けると、肉塊は血を滴らせながら、またゆっくりと転がり下っていった。

姿が消えたことを確認し、高木さんは走って自宅へ戻った。玄関の外では家族が彼を待っていた。どうやら友人の両親が、家に連絡をくれたそうだ。家族には「何故泊まらずに帰った」と強く叱られた。高木さんは祖父母にあの肉塊の正体を尋ねた。しかし、祖父母もはっきりとした正体は分からないと話した。ただ「山に棲まう化け物の類いだ」とだけ、青ざめ答えた。あれを見たのは一度きりだが、余所者があの山へ入り、行方不明になることがある。その度にあの肉塊を思い出すと高木さんは語った。

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