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心霊

レミオロメさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

鳴るはずのないナースコール
長編 2022/03/07 08:03 2,056view

私は以前、看護師として総合病院の入院病棟で働いていました。
病院というのは人が亡くなることも多々ある場で、心霊現象が起きやすいというイメージを持つ方も多いと思います。
実際に私が働いていた際、不思議な現象に遭遇したことが何度かありました。
今回はそのうちの1つの体験についてお話ししたいと思います。

その日、私は夜勤業務に就いていました。

その日の病棟の様子は普段と変わったところはなく、就寝前の検温や薬の配薬でバタバタしていましたが、消灯時間を迎えると患者さんたちは眠りにつき病棟内は昼間の慌ただしさが嘘のように静かになりました。

深夜は緊急入院などがなければ基本的に業務が落ち着く時間帯で、看護師たちはこの間に翌日の点滴や薬の準備をしたりカルテの記録に取り掛かります。

消灯前まではひっきりなしに鳴っていたナースコールも、患者さんの就寝時間帯はほとんど鳴りません。

この日も消灯後はぱったりとナースコールが鳴りやみ、私たちはいつものように静かなナースステーションで各々仕事をしながら過ごしていました。

深夜2時を回ったころだったと思います。唐突に、それまでほとんど沈黙していたナースコールが鳴り始めました。

どこかの部屋の患者さんが目を覚ましたかな、歩けない患者さんがトイレに連れて行ってほしいのかな、などと考えながらナースコールの発信元を確認するために手元のPHSに目をやりました。

知らない方のために補足すると、ナースコールは看護師が携帯しているPHSと連動しておりPHSで受け答えができるほか、コールがどこから発信されているのかを確認することができるようになっています。

PHSの画面を見た私は不思議に思いました。なぜなら画面には「浴室」と表示されていたからです。

病室にナースコールが備え付けられていることは入院経験がない方もご存じかと思いますが、ナースコールは病室の他にトイレや洗面室、浴室など病棟内のあらゆる場所に設置されています。
病室以外の場所で具合が悪くなったり助けが必要になった時など、病棟内で困ったことがあればすぐに看護師を呼ぶことができるようにするためです。

しかし、いま浴室からナースコールが鳴るはずはないのです。なぜなら消灯と同時に病棟内をくまなく見まわった上、深夜に使うことのない浴室には施錠をしているからです。

うっかり患者さんが中にいるまま施錠してしまった?と考え一瞬背筋がゾッとしましたが、すぐにそんなはずはないと頭の中で否定しました。

当然ながら施錠前には浴室の中を目視で確認しているし、消灯してから4時間ほど経つのに今ごろコールがあるというのも不自然です。
一緒に夜勤をしていた先輩も同じくPHSを確認し、私と同じように首を捻っていました。

浴室のナースコールは病室の物と違ってマイクがついていないため、PHSで音声のやり取りはできません。実際に現場に行って確認するしかないのです。

起こるはずのない現象を目の当たりにして心臓はドキドキと早鐘を打っていましたが、万が一患者さんが閉じ込められていたら一大事です。先輩と2人で懐中電灯を手に浴室へ向かいました。

その病院では何年も勤務して数え切れないほど夜勤をして、見慣れているはずの深夜の暗い病棟の廊下ですが、その時はなんだかいつもは感じない不気味さを感じました。

浴室は病棟の一番端にあります。奥まった位置にあるその場所はひときわ暗く、その前に立つと言い知れぬ不安感と恐怖を覚えました。

それでも、仕事は仕事なので中を確認しなければなりません。恐る恐る鍵を開け、先輩と一緒に浴室の中をそっと覗きました。本当に誰かが閉じ込められていたらどうしよう、と思っていましたがそこには真っ暗な空間が広がるだけで、人の気配はありませんでした。

浴室には誰もいなかったのです。ホッとしたような、しかしそれなら先ほどのナースコールは一体何だったのかと不安なような、何とも言えない気持ちになって先輩と顔を見合わせました。

その後は特におかしな現象が起きることはなく、翌朝いつも通り夜勤を終えました。

朝になって明るくなると深夜に感じた不気味さはどこかへ行ってしまったように感じ、ナースコールかPHSかどちらかの不具合だったのかもしれないなどと先輩と話していました。

それからシフトが休みに入り、次の出勤は数日後でした。

その日は日勤で、朝に私が出勤すると、待ちかねたようにあの日一緒に夜勤をしていた先輩が話しかけてきました。先輩は私より1日休みが短く、前日から出勤していたようです。

先輩によると、あの浴室からのナースコールがあった夜勤が明けた日の昼間、浴室を利用していた患者さんが転倒してけがを負ってしまったとのことでした。その患者さんは高齢だったこともありとっさの反応がとれず、顔面を床にぶつけて腫れあがってしまったそうです。

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