魂の行方を追って

私は病院で看護師をしています。これは去年体験した出来事です。

その日は宿直で病棟の見回りをしていました。
懐中電灯を持って深夜の廊下を歩いている最中、視界の端を白っぽいものが横切りました。
なんだろうと思って目を凝らし、煙だと理解しました。

しかしただの煙ではない証拠に、動き方がどうにもおかしいです。
まるで意志を持ったようにあっちへふらふらこっちへふらふら、廊下を飛び回っています。

呆然と凝視していると、煙の中におぼろげな人面が浮かび上がりました。

「あっ！」

煙が炙り出した顔には見覚えがありました。今日亡くなられた杉田さんです。安らかな死に顔です。

徘徊する煙を追って辿り着いた霊安室には、顔に白い布をかけられた杉田さんが横たわっていました。
謎の煙は杉田さんのご遺体の上でぐるぐる回ったかと思いきや、白い布をすり抜けて吸い込まれていきます。

次の瞬間、布越しにくぐもった声が聞こえてきました。

「お世話になりました」

念のため布をどけて確認した所、呼吸は完全に止まっていました。枕元に立てられたお線香は燃え尽きています。

あれは杉田さんの魂がご遺体を抜け出し、最後のお別れにきてくれたのでしょうか？
不思議と恐怖よりも感動を覚えた体験でした。