幼稚園児の描く絵

私は幼稚園で保育士をしていたことがあります。
当時担当していた年少組のAくんはお絵描きが大好きで、毎日画用紙にクレヨンで落書きしては見せに来てくれるのですが……。

「A君、これはなあに？」
「お父さんがだっこしてる人。こっちはお母さんがおんぶしてる人」

A君が描く絵には必ず両親らしい男女とA君自身、そして大量の真っ黒な顔が描かれていました。黒くて丸い顔は画用紙一面を埋め尽くす程で、見ているだけで鳥肌が立ちました。

「ねえ、こんなにお客さんがいっぱいでA君んちは大丈夫なの？狭くない？」
「んーん、平気。ちょっと寒いけど」

保育士や保護者の噂でA君の父親が悪名高いサラ金の経営者である事、母親が詐欺紛いの自己啓発セミナーの講師をしている事を知り、嫌な予感が膨れ上がりました。

一か月後、A君一家は謎の失踪を遂げました。

さらに一か月後、遠く離れた他県の山林でA君だけが保護されました。しかしA君はショックで一部記憶と言葉を失っており、他人に酷く怯えるようになっていたのです。

入院先の小児精神科病棟でA君が描く絵には夥しい黒くて丸い顔の他に、真っ赤でまん丸い男女の顔……A君の両親が加わりました。描いてる間中、A君は涎をたらして笑っていたといいます。