奇々怪々 お知らせ

心霊

くにしろさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

4人目の演者
短編 2022/09/23 08:04 834view

 今から何年も前の体験談です。
 当時の私は地方の小劇団で役者をやっており、その伝手で様々な短期の現場仕事に駆り出されていました。

 とある夏のこと、私は劇団から斡旋された仕事で、期間限定の「お化け屋敷」の仕事に参加しました。
 よくあるウォークスルー型と言われる形式で、ルート上を歩いているお客さんを、幽霊に扮した演者が脅かす、というようなものでした。生身の人間が演じる幽霊というのは、人形や機械を使うよりも恐怖心を強く煽るようで、そのアトラクションはとても人気があったように思います。

 私の仕事は、ルートの最後の方で、壁のガラス越しに通りがかったお客さんを脅かした後、驚いて逃げたお客さんを後ろから追いかける、という役割でした。その時の格好は、ところどころが破れて汚れた白く裾の長いワンピースに、顔を隠しきる長い髪のカツラを被っていました。某有名映画の井戸から這い出てくる幽霊をイメージしてもらうとわかりやすいと思います(よく演者同士でも貞○と呼ばれていました)。
 そして、ルートの先には出口のない真っ暗な小部屋があり、お客さんと私(幽霊)がそこに入るとアトラクション最後の仕掛けが始まります。
 部屋の入り口が閉ざされ、私と同じ格好の幽霊役が2人、部屋の各所から這い出て来ます。同時に、備え付けられたストロボライトが激しく明滅を始めます。不思議なもので、細かく点滅するストロボライトの中では、普通に動くだけでも見た目には瞬時に移動したかのように錯覚するのです。
 そうしてたっぷり30秒ほどお客さんを怖がらせた後、ストロボの明滅が止み、出口が開いてアトラクションは終了、お客さんがはけて出口が閉まると、私はルートをさかのぼって最初のガラス越しの位置に戻る、というのが一連の流れでした。

 仕事に参加し始めて数日経ち、すっかり幽霊役にも慣れた頃に(慣れすぎて少し陰鬱な気持ちになった頃に)、お客さんから不思議な言葉が聞こえました。

「怖かったねー」
「ね、4人もいるなんてね‥‥」
 ん?4人?
 お客さんが部屋を後にし、扉が閉まってから、私は別なお化け役の1人と顔を見合わせました。
「今、4人って言った?」
「言ってたね‥‥」
 しかし、幽霊役は私を含めても3人しかいません。お互いに首を傾げました。
 疑問は残りましたが、そうは言っても次のお客さんはすぐにやってくるため、ひとまず次の準備のために私は自分の持ち場に戻ることにしました。
 前述の通り、部屋のストロボライトは目の錯覚を起こします。きっと目の錯覚で4人と見間違えたのだろう。そう思うことにし、私は次のお客さんに備えることにしたのです。

 そんなことがあってしばらく後、何度目かのお客さんを‘追い出し’てから持ち場に戻る途中でのことでした。
 ルートを逆に歩いていると、自分と同じ格好をした誰かが、私の横をすれ違って行ったのです。
 「交代かな?」と思いましたが、幽霊役の交代に私が今いるルートは使いません。不思議に思い振り返ると、そこには誰の姿もありませんでした。
 念の為、私はストロボ部屋に戻り、潜んでいる幽霊役に問いかけました。
「今、誰かこっちに来なかった?」
「いいや、誰も来てないよ」
 幽霊役の返事に、何かと見間違えたんだろうかとも思いましたが、そこで気になることがありました。
 先ほど誰かとすれ違ったあたりは、ほとんど照明がなく、足元がぼんやりとわかる程度の暗さの場所でした。だというのに、なんであそこまではっきりと相手の格好が見えたのだろうか、と。

 それから後には、これといって不思議なことは起きませんでした。私も、その出来事について誰かに報告もできないまま、お化け屋敷の開催期間は無事に終了しました。
 あの時私は何を見たのか、あのお客さんは誰を見たのか、ただの見間違いだったのか、本当に4人目の演者が存在したのか。
 今となっても、わからないままです。

1/1
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。