トイレに誰かいる

私は看護学生の頃アルバイトしていました。夜勤もあったんですが、夜勤は見習いの人と楽しくやってました。
別に遊んでたわけじゃないですけどね。
大変ではあったけど救急搬送もありある意味刺激的な毎日でした。

その日も救急隊から電話がありこちらに向いたいと。腹痛のある７８歳のおじいさんであると。
先生に確認し受けることになりました。

ドアをあけるために１階に行き待っていても一向に来ない。

暗い中待っていると何やらトイレからうなり声がする。　
入院患者かと思って「どうしました？痛いんですか？」ときいても返事はない。

救急搬送するところは入院できる棟とは離れているので患者さんはいないはず。

救急車を待つ間、トイレの中にいる人が気になっていた。
誰なんだろう。大丈夫かな。救急車も来るしどうしようと悩んでいた。

あまりに救急車が来ないので病棟に内線すると見習いが出て
「あ。先輩。どこにいますかああああ」
悲痛な声。病棟では大変らしい。

「どこって救急車まってるんだけど」
あ。と見習いはつぶやいたあと

「来ないって連絡ありました」
すみませんという見習いに呆れドアを施錠し気になっていたトイレに声をかけた。

「誰かいるのならお返事してくださいね。開けますよ」

ドアを開けてもいない。

その話を見習いにすると怪訝な顔になり
「今日朝に救急搬送された人がそこで死んだんです。子宮外妊娠した若い子です。ちょうどトイレの前でした」

私は怖くなりしばらくそこには行けませんでした。
思いはまだそこにあるのでしょう。
ご冥福をお祈りいたします。