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心霊

もんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

文化財と幽霊
長編 2024/02/17 22:55 2,149view
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 私は、博物館で学芸員をしています。

 所属は自治体の教育委員会で、博物館運営にかかわるだけでなく、遺跡の発掘調査から報告書の執筆、仏像や墓石、古文書などの調査や保管など、文化財にかかわることを何でもやります。

 怖い話で、「発掘調査をせずに遺跡を壊して建物を建てたら祟られて……」というのを時々目にします。発掘調査をしている身からすると、発掘調査も立派な遺跡破壊であるし、仲間の考古屋さんには幽霊、心霊なんか信じない、恐れない人も多く、もちろんゴーストバスターみたいなこともできる人に会ったこともありません。私たちに、幽霊や祟りをどうにかする力なんてないような気がします。
 しかし、遺跡の発掘に、もし、幽霊や祟りを鎮める力があるのなら、それは遺跡や遺物に対する担当者の愛情によるところではないかなぁ、と思います。発掘調査は本当に丁寧に行われ、記録されますし、出土した遺物は丁寧に洗われ、接合され、図化されて本に載せて学会で発表されたりもします。だいたいの考古屋は、「この壊れてしまう遺跡を、歴史を、何とかして後世に残したい、伝えたい、どうにかしてあげたい」という気持ちで発掘に臨んでいます。

 ちなみに、発掘で祟られた、おかしくなった、という話も、聞いたことがないわけではありません。
 不可解な事故の続く現場や(これは古墳と古代の祭祀跡で聞きました)、担当者の交通事故や病気が多発する現場(これは古代の祭祀跡の話でした)、一件だけ、担当者が発狂した現場(これも古代の祭祀跡でした。担当者は謎のヘビ神を崇め奉りはじめました)も知っています。(思い返したら、古代の祭祀跡、いろいろ起こることが多いですね。祭祀跡怖いです。)

 だいぶ話がそれました。

 先にも申し上げましたが、私の職場は博物館です。そして、発掘で出土した資料の収蔵場所でもあります。
収蔵品をしまっている箱は、ざっと見積もって数万箱。中身は、土器や石器が多いですが、中には、獣骨や人骨、祭祀具や呪具、墓石や石仏まで多岐にわたります。

 人骨が発掘で出た場合、状況にもよりますが、比較的新しくて土地の元の持ち主の先祖だと推測でき、元の地主が引き取りたい、と言ってきた場合は、清掃して記録保存した後、僧侶を呼んで法要を行い、改葬してもらう場合もあります。そういう場合は、報告書に記載はしないことが多いです。

 一度、そういう発掘現場で作業にあたったことがありますが、とても奇妙なことがありました。
 その現場は里山と畑の境目くらいの場所で、昼間こそ野生動物は近づきませんが、朝一番で行くと、イノシシに遭遇したり、ニホンジカやカモシカに出会います。サルも出るし、もちろんカラスもいます。近隣の畑はいつも獣害に悩まされている場所でした。
 そこから、おそらく江戸時代も後の頃でしょうか、がっしりした壮年男性の骨が、ほぼ完形で出土しました。発掘作業員は、骨の現位置をとどめたまま、丁寧に土を取り除きました。
 このご遺体をどうするか、元の地主と話し合ったところ、おそらく自分の先祖なので、菩提寺の住職を呼んで法要を営んだ後、自分の家の墓に入れる。とのことで、発掘の担当者もそのつもりで段取りをしました。
 法要の当日、施主の元地主は、花束とフルーツのかご盛のかなり豪華なものを用意してきて、ご遺体の前に飾り付けました。
 法要は滞りなく終わり、遺物を入れるプラ箱を貸し出して、その中にお骨をみんなで取り上げ、地主と住職は引き上げていきました。後には、花束と、フルーツと、ご遺体を納めていた穴が窪みで残りました。
 フルーツは、たしか、メロンとリンゴ、オレンジ、グレープフルーツ、葡萄あたりが盛り付けられていたと記憶しています。なんで置いて行ったかはわかりませんが、作業員も、連日やって来る野生動物がすぐに食い尽くしてくれるだろう、とそのままに放置しました。

 しかし、1日経っても、2日経っても、一週間経っても、フルーツはそこに残り続けました。
イノシシやシカはおろか、サルやカラスも近づきやしませんでした。
 結局2週間後に、発掘作業員が片づけました。

 さて、引き取り手のなかった人骨ですが、こちらは遺物として土器や石器とと同様に扱います。出土状況を記録し、解剖学的な観察を行い、報告書に記載します。そして、整理番号を付けられ、最終的にはプラ箱に入れられて収蔵庫で眠りにつきます。クリーニングや整理をしている最中は、作業員さんの中には、人骨に名前をつけて、語り掛けながら作業をする方も少なくないようです。
 最近は、人骨を展示することは人道的に問題視されることも多く、当館では展示されておりません。あまり公には言いませんが、8000年前くらいから2~300年前くらいの人骨が、私の概算で少なくとも600人分は収蔵庫にいらっしゃるのではないかと思います。
 殆どは、亡くなった後丁寧に埋葬された方ですが、中には事故や災害に巻き込まれたまま出土した方もいらっしゃいます。

 実は、小さな怪現象は館内でちょくちょく起こっています。

 「バンッ」という、ものすごく大きなラップ音は、定期的に鳴りますし、誰もいないのに扉が開く音が聞こえることもあると、同僚が言っていました。

 私自身が遭遇したものだと、目の前で誰もいないエレベーターが勝手に開いてから閉まり、行き先のボタンを押さなければ上の階にはいかないはずなのに、勝手に上の階へ行ってしまいました。後日メンテナンスに来た業者の方に聞いたら、その時間に遠隔操作はしていないとのことでした。昔の人もエレベーターに乗りたかったんでしょうかね。

 あと、閉館1時間前にお客さんがいなかったので、展示ケースを拭き上げておいたら、閉館後に同僚から、「展示ケース、ちゃんと拭いたよね?」と確認されました。私はもちろん、念入りに拭いた、と伝えると、同僚が閉館後に見回りしたところ、展示ケースにべたべたと子供の手形かついていた。とのこと。その日は、お子様の来館者は一人もおりませんでした。くしくも、その手形のあった展示ケースは、子供の死者に関する展示品の近くでした。

 最後に、「家に霊がいるか調べる方法」というのをご存じでしょうか?
 いくつかあると思うのですが、その一つに、「目を閉じて想像する。自分の家の玄関から入って、各部屋をまわりながら窓をひとつづ開けてゆく。誰かに出会ったら、それは霊」という方法があるそうです。
 ある日、私が退勤した直後、駐車場でふと、エアコンは消したか、鍵はしめたか、電気ポットの電源は切ったか、そもそもタイムカードを押して出てきたか、心配になってしまいました。
 そこで、車の前で目をつぶり、さっき潜り抜けてきた職員通用口から戻る想像をしながら確認しようとしてしまいました。
 職員通用口の鍵を開けると、すぐに60畳ほどのホールになっています。

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コメント(3)
  • 学芸員志望したが叶わなかった俺にとっては、全てが羨ましい話だっ!!(笑)

    2024/02/21/12:35
  • 学芸員を志望したが叶わなかった俺にとっては、何とも羨ましい話だっ。

    2024/02/21/17:02
  • 祭祀跡が怖い場所だと初めて知りました
    グローバリズムが進むにつれて昔からある古墳が将来的に壊されていくのではないかと心配してますが、そんな事をする輩には必ず天罰が下る事を願っています

    2024/02/29/13:11

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