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ヒトコワ

綿貫 一さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ケータイ忘れただけなのに
長編 2023/12/18 09:00 6,418view
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『あ、しまった! ケータイ忘れた!』

発車間際の電車に飛び乗り、ほっと一息ついたのも束の間、私は恐ろしい事実に気が付いて戦慄した。
カバンの中も、ポケットの中も、探したけれど見つからない。
それもそのはず、記憶の中には、部屋の充電器に繋げっぱなしになっているケータイの姿が浮かんでいる。

ケータイくんが突然自我に目覚めて、私の気が付かないうちに、気を効かせて、ひとりでにカバンに入っていてくれた――なんて、奇跡でも起きない限り、彼は今も部屋でひとり、お留守番をしていることだろう。

なんでよりによって、デートの待ち合わせに向かうって時に、ケータイを忘れてきてしまうんだろう。私のバカ、バカ、バカ!

原因はわかっている、慌てていたからだ。
昨夜、テンションが上がって、夜更かししたのが良くなかった。
寝坊して飛び起きて、大急ぎでシャワーを浴びて、ロングヘアにドライヤーを当てて無理やり乾かして。
高速で化粧して、着替えて、トイレに行って。

カバンをつかんで、部屋を飛び出して、駅まで全速力でダッシュして――

ほら、ケータイ忘れてる!

とりあえず、遅れそうなことを彼に連絡しなくっちゃ……って、そうだ! ケータイないんだった!

肌身離さず持ち歩くのが当たり前になっているから、こういう時に軽く混乱してしまう。

私は今、ケータイを持っていない。
だから、彼に連絡ができない。
――OK?

仕方ない、まずは目的の駅までスムーズに移動することに集中しよう。
今のうちに乗り換えを調べておこう……って、だから、ケータイがないから調べられないんだって!

自分の行動とケータイとが、あまりにも自然に結びついていて、恐ろしくなってしまう。

ふだん、どれだけケータイに頼りきった生活をしているか、ということだ。
今も、気持ちを落ち着けるために音楽でも聞こうと、無意識に手がケータイを探していた。
本当に恐ろしい……。

憔悴する私の耳に、車内アナウンスが聞こえてきた。

「ただいま、××駅で発生した人身事故の影響で、ダイヤに乱れが発生しております。
お客様には大変ご迷惑をおかけ致しますが――」

『ああもう! こんな時に限って!』

私は心の中で毒づいた。

§

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コメント(3)
  • このオマージュを理解できる人はオッサンだと思う(笑)
    はい、自分もですよ

    2023/12/18/19:36
  • 2006年くらいにアニメ見てた人には懐かしい名前

    2024/01/05/01:31
  • ((( ;゚Д゚)))なるほど

    2024/01/20/16:48

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