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不思議体験

綿貫 一さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

小さな神様
短編 2024/02/13 00:17 2,917view
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山中の、ぽっかり開けた小さな草原のただ中に、僕らはいた。
もう間もなく陽が沈む。
夏の、長い昼の時間が終わる。
夕陽が世界を紅く染め上げ、じわりじわりと炙り続けている。
影絵になった木立の向こうから、夜気を含んだ風が吹き、ヒグラシの輪唱を運んでくる。
じき夜になる。

僕はひとり立ち尽くしていた。
目の前には、彼女が横たわっている。
彼女の左胸からは、ナイフの柄(え)が生えていた。
生命力に溢れた背の高い夏草を額縁にして、彼女は永遠の静物画だった。

足元でショウリョウバッタがバネの爆(は)ぜるような音をさせながら跳び上がり、一瞬、僕の視界を斜めに横切ると、そのまま視界の外へと消えていった。
僕はただ呆然と、彼女の死を鑑賞していた。
 
――もぞり。

不意に、わずかに開いた彼女の口の隙間で、何かが蠢(うごめ)いた。

もぞり。
もぞり。
這い出してくる。

ああ――虫だ。

「もし、神様や仏様がいるなら、それは虫のような姿をしているって思わない――?」

その日、デートで訪れた北鎌倉のとある寺院で、仏像を眺めながら彼女は言った。

今日はいったい何を言い出すのかと、内心ワクワクしながら、それでもわざと素っ気ない口調で「なぜだい?」と僕は尋ねた。

「だって、神様は光り輝く姿をしているんでしょう? 人に似た姿でそんなの不自然だわ。
コガネムシやタマムシの方が自然じゃない」

「きっと、紅白に出演する演歌歌手みたく、キラキラした服を着ているんだよ」

彼女は気にする様子も見せず、次のボールをサーブする。

「神様は人々を救うために、多くの手を持っているんでしょう? 人に似た姿でそんなの不自然だわ。
クモやムカデの方が自然じゃない」

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コメント(1)
  • 不思議な彼女。

    2024/02/13/05:43

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